映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020)を紹介&解説。
映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』概要
映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』は、スパイク・リー監督(『ブラック・クランズマン』)が、ベトナム戦争に従軍した黒人退役軍人たちの過去と現在を交錯させて描く戦争ドラマ。戦死した仲間の遺骨と埋蔵金を求めてベトナムへ戻った4人が、戦争の傷、友情、欲望、祖国における人種差別と向き合う。主演はデルロイ・リンドー、共演にジョナサン・メジャース、クラーク・ピータース、チャドウィック・ボーズマンら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ザ・ファイブ・ブラッズ』 |
|---|---|
| 原題 | Da 5 Bloods |
| 製作年 | 2020年 |
| 全世界公開日 | 2020年6月12日(Netflix配信開始) |
| ジャンル | 戦争/ドラマ/アクション/アドベンチャー |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 155分 |
| 監督 | スパイク・リー |
|---|---|
| 脚本 | ダニー・ビルソン/ポール・デ・メオ/ケヴィン・ウィルモット/スパイク・リー |
| 製作 | ロイド・レビン/ベアトリス・レビン/ジョン・キリク/スパイク・リー |
| 製作総指揮 | ジョナサン・フィレイ/バリー・レビン/マイク・バンドリー |
| 撮影 | ニュートン・トーマス・サイジェル |
| 編集 | アダム・ガフ |
| 作曲 | テレンス・ブランチャード |
| 出演 | デルロイ・リンドー/ジョナサン・メジャース/クラーク・ピータース/ノーム・ルイス/イザイア・ウィットロック・Jr./メラニー・ティエリー/ポール・ウォルター・ハウザー/ヤスペル・ペーコネン/ジョニー・グエン/ジャン・レノ/チャドウィック・ボーズマン |
| 製作 | Netflix/ラウェイ・ロード/40エーカーズ・アンド・ア・ミュール・フィルムワークス/ブラック・シープ・ピクチャーズ |
| 配給 | Netflix |
あらすじ
ベトナム戦争から数十年。ポール、オーティス、エディ、メルヴィンの4人の黒人退役軍人は、戦死した隊長ノーマンの遺骨と、かつて密かに埋めた金塊を探すためベトナムへ戻る。ポールの息子デヴィッドも同行し、一行はジャングルの奥へ進むが、封じてきた戦争の記憶と欲望が彼らを揺さぶっていく。
主な登場人物(キャスト)
ポール(デルロイ・リンドー):ベトナム戦争に従軍した“ブラッズ”のひとり。戦争による深刻な心の傷と怒りを抱え、周囲との関係をこじらせている。亡き隊長ノーマンの遺骨と金塊を探す旅に参加する。
デヴィッド(ジョナサン・メジャース):ポールの息子。父の不安定な精神状態を心配し、ベトナムでの旅に同行する。確執を抱える父と向き合いながら、その胸に秘められた戦争の記憶を知っていく。
オーティス(クラーク・ピータース):“ブラッズ”の一員で、仲間たちの中では比較的冷静な人物。旅の準備を進める一方、ベトナムでかつて親密な関係にあった女性ティエンと再会する。
エディ(ノーム・ルイス):成功した実業家として仲間たちから頼りにされている退役軍人。ノーマンの遺骨を祖国へ連れ帰るため、仲間とともに危険なジャングルへ足を踏み入れる。
メルヴィン(イザイア・ウィットロック・Jr.):陽気で仲間思いな“ブラッズ”の一員。長い年月を経ても変わらない友情を大切にし、金塊とノーマンの遺骨を探す旅を支える。
ノーマン(チャドウィック・ボーズマン):ベトナム戦争時に“ブラッズ”を率いていた隊長。黒人の歴史と誇りを仲間たちに説いた精神的指導者であり、戦死後も4人の記憶と人生に大きな影響を与え続けている。
作品の魅力解説
戦争映画と宝探し冒険の融合
戦友の遺骨を回収するという厳粛な目的と、ジャングルに眠る金塊を探す冒険が同時に進行する。戦争映画、ロードムービー、宝探しサスペンスという複数の要素を盛り込みながら、物語の中心には最後まで、戦争に人生を狂わされた黒人退役軍人たちの痛みが据えられている。
ベトナム戦争と黒人差別を結びつける視点
「白人は大学で徴兵逃れ。黒人は前線でハエのように死んでいく」という言葉が示すように、本作はベトナム戦争を黒人兵士の視点から捉え直す。祖国のために命を懸けながら、帰国後も差別にさらされた彼らの矛盾と怒りを通して、戦争と人種差別が切り離せない問題であったことを浮かび上がらせる。
『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989)から『ブラック・クランズマン』(2018)まで、黒人差別と真摯に向き合いながら、それを力強いエンターテインメントとして届けてきたスパイク・リー。本作の製作はジョージ・フロイドの死をきっかけとする2020年の抗議運動以前に始まっていたが、奇しくも「Black Lives Matter」の声が世界的に高まる時期に配信された。記録映像や歴史上の人物の発言を交えながら、過去の戦争と現代まで続く構造的差別を結びつける語りは、同時代の観客に強烈な衝撃を与えた。
現在まで残り続ける戦争の爪痕
本作が描くのは、戦場で失われた命だけではない。PTSDを抱える退役軍人、その痛みを受け継ぐ家族、戦争によって傷つけられたベトナムの人々、現在も市民を脅かす地雷など、ベトナム戦争がさまざまな立場の人間に残した傷が多角的に示される。無意味な不幸を撒き散らした戦争が、終結から数十年を経てもなお人々の人生を縛り続けていることを、鮮烈なかたちで目に焼きつける作品である。
怒りを連帯へ変えるノーマンの“正しさ”
チャドウィック・ボーズマン演じるノーマンは、仲間たちに黒人の歴史と誇りを説き、彼らを正しい方向へ導こうとする精神的指導者として描かれる。仲間の怒りが暴力へ転じようとする瞬間にそれを制し、悲しみと憤りを全員の叫びへ変えていく場面は、本作を象徴する一幕だ。『ブラックパンサー』や数々の伝記映画でも高潔な人物を体現してきたボーズマンの佇まい、声、語り口が、ノーマンの説得力を一層高めている。単純な善悪では割り切れない極限状況の中で、それでも正しい行いとは何かを問いかける点にも、本作の深みがある。
映画史への大胆なオマージュ
戦時中の回想を16ミリフィルムで撮影し、時代や場所に応じて画面比率を変化させる映像設計も特徴。さらに、ジャングルへ向かう場面をはじめ、『地獄の黙示録』を意識した演出が随所に盛り込まれ、「ワルキューレの騎行」まで流れる。戦争映画史に残る名作への敬意を示しながら、その語りを黒人兵士たちの側から更新する、大胆かつ刺激的な試みとなっている。
デルロイ・リンドーの圧倒的な演技と音楽
戦争の記憶、息子との確執、政治的な怒りに引き裂かれるポールを演じたデルロイ・リンドーの鬼気迫る演技も大きな見どころ。テレンス・ブランチャードの重厚な劇伴とマーヴィン・ゲイの楽曲が、登場人物たちの悲しみや怒りを包み込み、社会派作品としての鋭さと人間ドラマとしての情感を両立させている。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
