映画『マリウポリの20日間』(2023)を紹介&解説。
映画『マリウポリの20日間』概要
映画『マリウポリの20日間』は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻初期、包囲された港湾都市マリウポリに残ったAP通信のウクライナ人記者たちが、現地の惨状を記録した戦争ドキュメンタリー。ミスティスラフ・チェルノフ監督が自ら撮影した映像を中心に、民間人の犠牲、産院への爆撃、集団墓地、情報戦、そして記者たちの決死の脱出までを映し出す。第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞し、ウクライナ映画史上初のアカデミー賞受賞作となった。
作品情報
| 日本版タイトル | 『マリウポリの20日間』 |
|---|---|
| 原題 | 20 Days in Mariupol |
| 製作年 | 2023年 |
| 本国公開日 | 2023年7月14日(アメリカ)/2023年8月31日(ウクライナ) |
| 日本公開日 | 2024年4月26日 |
| ジャンル | ドキュメンタリー/戦争 |
| 製作国 | ウクライナ/アメリカ |
| 上映時間 | 97分 |
| 監督・脚本・撮影 | ミスティスラフ・チェルノフ |
|---|---|
| 製作 | ミスティスラフ・チェルノフ/ミッチェル・マイズナー/ラニー・アロンソン=ラス/ダール・マクラッデン |
| フィールド・プロデューサー | ワシリーサ・ステパネンコ |
| スチール撮影 | エフゲニー・マロレトカ |
| 編集 | ミッチェル・マイズナー |
| 音楽 | ジョーダン・ディクストラ |
| 出演 | ミスティスラフ・チェルノフ/エフゲニー・マロレトカ/ワシリーサ・ステパネンコほか |
| 製作 | AP通信/FRONTLINE PBS |
| 配給 | PBS Distribution(アメリカ)/シンカ(日本) |
あらすじ
2022年2月、ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まる。AP通信の記者ミスティスラフ・チェルノフらは南東部の都市マリウポリに入り、包囲されていく街に残って取材を続行。死傷する市民や産院への爆撃、集団墓地などを記録して世界へ発信するが、戦況は悪化し、彼ら自身にも危険が迫っていく。
主な登場人物(キャスト)
ミスティスラフ・チェルノフ:AP通信のウクライナ人ビデオジャーナリストで、本作の監督・脚本・製作・撮影も担当。ロシア軍による侵攻が始まったマリウポリに留まり、カメラを回し続ける。本作では自身のナレーションを通して、取材時の葛藤や恐怖も語る。
エフゲニー・マロレトカ:AP通信のフォトジャーナリスト。チェルノフとともにマリウポリを取材し、産院への爆撃をはじめ、包囲下の市民たちに起きた出来事を写真に収める。本作のスチール撮影も担当した。
ワシリーサ・ステパネンコ:AP通信取材班のフィールド・プロデューサー。チェルノフ、マロレトカとともに包囲されたマリウポリに残り、世界へ現地の状況を伝えるため取材活動を続ける。
ウォロディミル・ニクリン:マリウポリの警察官。危険を冒して取材を続けるAP通信チームを支援し、市外へ脱出する過程でも重要な役割を担う。
作品の魅力解説
本作を観ることは、決して心地よい体験ではない。劇中で語られる「観ていて辛い。しかし、辛くあるべきなのだ」という趣旨の言葉こそ、この作品の存在意義を端的に表している。戦争の悲惨さを理解するためには、時として目を背けたくなる現実にも向き合わなければならない。『マリウポリの20日間』は、その覚悟を観客にも求めるドキュメンタリーである。
カメラが捉えた光景はあまりにも生々しい。爆撃を受け、担架で運ばれながら腕を震わせる女性。衝撃のあまり瓦礫の中から動くことのできない青年。言葉を発すれば泣いてしまうと声を詰まらせながら、遺体を埋葬する男性。そして息子や娘を失い、悲痛な叫びを上げる親たち。戦争を死者数や占領地域といった数字だけで理解するのではなく、その一つひとつの数字の裏側に存在する人間の痛みとして突きつけてくる。そこに映っているのは、まさしく「地獄」と形容するほかない現実だ。
さらに重要なのは、これらが安全な場所から振り返って再現された映像ではないことである。ミスティスラフ・チェルノフらAP通信の取材班は、自らも命を落としかねない包囲下のマリウポリに残り、都市が破壊され、人々が犠牲になっていく瞬間を記録し続けた。その勇気と信念がなければ、世界が目にすることのできなかった光景が確かに存在する。撮影すること、映像を外へ送り届けること自体が命懸けの行為だったという事実には、最大限の敬意を払わずにはいられない。
同時に本作は、「悲劇を記録し、伝えることには何の意味があるのか」というジャーナリズムの根源的な問いにも答えている。チェルノフたちが世界へ送り出した映像に対し、ロシア側は偽情報であるとの主張を展開する。だからこそ、現場に居合わせた者がカメラを回し、証拠を残し、世界へ伝える行為には大きな意味がある。ひとつの映像が世論を動かし、国際社会を動かし、その先で少しでも多くの命を救う可能性があるからだ。
第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した本作は、戦争の惨禍を記録した映画であると同時に、それを世界へ伝えようとした人々の記録でもある。「観るのが辛いから目を背ける」のではなく、「辛いからこそ目を背けてはならない」。その強烈な使命感こそ、『マリウポリの20日間』という作品の最大の価値である。
