アカデミー賞ノミネートの実話映画『ヒンド・ラジャブの声』公開決定-少女の声が記録したガザの現実

『ヒンド・ラジャブの声』より © MIME FILMS — TANIT FILMS NEWS
『ヒンド・ラジャブの声』より © MIME FILMS — TANIT FILMS

第98回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた実話映画『ヒンド・ラジャブの声』が、9月4日より日本公開される。


第82回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞<審査員グランプリ>を受賞し、第98回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた映画『ヒンド・ラジャブの声』が、2026年9月4日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国で公開されることが決定した。本作は、2024年1月29日にガザ地区で実際に起きた出来事を基に描かれた実録ドラマであり、世界が傍観した悲劇を“声”という形で記録する作品である。

ガザで起きた現実-6歳の少女ヒンド・ラジャブの「声」

2024年1月29日、パレスチナの人道支援組織・パレスチナ赤新月社のボランティアチームに、一本の緊急通報が入った。発信者は、ガザ地区で銃撃下の車内に閉じ込められた6歳の少女、ヒンド・ラジャブだった。ボランティアチームはヒンドと電話をつないだまま、救出のためにあらゆる手段を尽くすが、状況は刻一刻と悪化していく。

本作は、パレスチナ赤新月社が記録したこの緊急通報を基に制作されており、作中の電話シーンで使用されている音声は、この日の実際の通話記録である。監督は、後日公表されたヒンド・ラジャブの短い音声クリップを耳にしたことが映画化のきっかけだったと明かしており、その瞬間を「私の心の中で何かが揺らいだ」と振り返っている。少女の「声」は、単なる記録ではなく、世界に向けて発せられた切実な叫びとして、本作の中心に据えられている。

『ヒンド・ラジャブの声』より © MIME FILMS — TANIT FILMS

『ヒンド・ラジャブの声』より © MIME FILMS — TANIT FILMS

カウテール・ベン・ハニア監督が記録する「忘れてはならない現実」

監督・脚本を務めたのは、フィクションとドキュメンタリーの境界を横断する作品で国際的評価を重ねてきたチュニジア人監督、カウテール・ベン・ハニア。第93回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『皮膚を売った男』(2020)、第76回カンヌ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞し、第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされた『Four Daughters フォー・ドーターズ』(2023)などを通じて、現実と向き合う鋭い視点を提示してきた。

本作で彼女が描くのは、ガザで起きた痛ましい出来事そのものだけではない。世界に向けて発せられた少女の「声」が、どのように受け止められ、そして見過ごされてきたのかという現実である。ヴェネチア国際映画祭での授賞式において、監督は「ヒンドの声は、ガザそのものの声です」と語り、その叫びが持つ意味を強く訴えた。

さらに彼女は、本作が単なる象徴として消費されることを拒む姿勢を明確にしており、アカデミー賞ノミネートを受けたコメントでも、「“象徴”としてではなく。“歴史”として。」という言葉を残している。『ヒンド・ラジャブの声』は、映画という表現を通じて、忘却に抗い、記録し続けることの責任を問いかける作品となっている。

ヴェネチアで記録的反響-世界が注目した23分間のスタンディングオベーション

『ヒンド・ラジャブの声』は、第82回ヴェネチア国際映画祭でのプレミア上映後、同映画祭史上最長となる<23分>に及ぶスタンディングオベーションを受け、大きな注目を集めた。審査員グランプリにあたる銀獅子賞を含む8冠を達成し、その評価は映画祭の枠を超えて広がっていく。

『ヒンド・ラジャブの声』より © MIME FILMS — TANIT FILMS

『ヒンド・ラジャブの声』より © MIME FILMS — TANIT FILMS

海外メディアからも称賛の声が相次ぎ、GQ magazineは「この10年間で最も重要な作品」と評し、BBCは「涙なしに観ることは不可能だ」とコメントした。また、The Hollywood Reporterは「圧倒的で強烈に没入する」、The Guardianは「激しく、緊迫感があり、心を揺さぶる」と評価するなど、本作が観客に与える衝撃の強さを伝えている。さらにINDIEWIREは、「これは彼女(ヒンド)の哀歌であり、追悼であり、声であり、顔である」と表現し、作品が持つ記録性と追悼の側面を強調した。

こうした国際的評価を背景に、本作は第98回アカデミー賞国際長編映画賞へのノミネートを果たす。映画祭や賞レースでの評価は、作品の完成度だけでなく、記録された「声」が世界に共有される意義そのものを浮き彫りにしている。

アカデミー賞ノミネートが示す意味-「象徴」ではなく「歴史」として

第98回アカデミー賞国際長編映画賞へのノミネートを受け、カウテール・ベン・ハニア監督は改めて本作の位置づけについて言及している。「このノミネートはヒンドのものです。彼女の声のものです」と語った上で、世界中から集まった作品の中に本作が選ばれたことを「“象徴”としてではなく。“歴史”として。」受け止めているとコメントした。

映画は出来事をなかったことにすることも、失われた命を取り戻すこともできない。しかし、記録し、伝え続けることはできる。本作が実際の通話音声を用い、少女の「声」をそのまま残したことは、その行為自体が問いであり、責任であるとも言える。『ヒンド・ラジャブの声』は、鑑賞後に明確な答えを提示する作品ではないが、忘却に抗い続けるための記録として、観る者に重い余韻を残す。

世界的な評価とアカデミー賞ノミネートを経て、日本でも公開される本作は、ひとつの映画作品としてだけでなく、現代を生きる私たちが向き合うべき現実を静かに突きつける存在となりそうだ。

作品情報

作品名:ヒンド・ラジャブの声
原題:The Voice of Hind Rajab
監督・脚本:カウテール・ベン・ハニア
製作総指揮:ブラッド・ピット、ホアキン・フェニックス、ルーニー・マーラー、ジョナサン・グレイザー、アルフォンソ・キュアロン
出演:サジャ・キラニ、クララ・クーリー、モタズ・マルヒース、アメル・フレヘル
2025年|チュニジア、フランス|89分|字幕:松浦美奈|字幕監修:高橋和夫
© MIME FILMS — TANIT FILMS
提供:ニューセレクト
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

cula をもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む