【映画レビュー『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』】“演じる人生”を脱ぎ捨てるために——愛と後悔を包み込む、静かな時空の旅

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より REVIEWS
『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

新作映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』を紹介&レビュー。


12月19日(金)に日本公開となる『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』は、コゴナダ監督が手がける、大人の恋と記憶をめぐるファンタジーだ。不思議なレンタカー会社に導かれた男女が、扉を通じて過去を旅し、後悔や喪失と向き合いながら、いまの関係を選び直そうとする——その姿を繊細に描き出す。主演はマーゴット・ロビーコリン・ファレル、音楽を久石譲が担当している。

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』あらすじ

恋愛に懐疑的な女性サラ(マーゴット・ロビー)と、結婚に憧れ続けてきた男デヴィッド(コリン・ファレル)。ふたりは友人の結婚式で出会う。その後、謎めいたレンタカー会社から借りた車とカーナビに導かれるまま、行く先々に現れる不思議な扉をくぐり、自分たちの過去のさまざまな場面へと足を踏み入れていく。​​​​​​​​​​​​​​​​

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

不思議な設定、普遍的な物語

過去の経験に縛られ、現在や未来への希望にフタをしてしまった男女。人生のチャンスを掴みきれずにいる彼らが、カーナビと不思議な扉に導かれながら、さまざまな人生の岐路と向き合い直していく様子を描く本作は、SF映画ではない。カーナビや扉の仕組みに説明はないし、正直なところ説明など必要ない。本作におけるマジックリアリズム(※)は、エモーショナルな物語を紡ぐため、人生の普遍的なメッセージを届けるための装置に過ぎないからだ。

映像表現として“不思議システム”を採用してはいるものの、その本質は極めてシンプルだ。私たち誰もが勇気さえ出せば実践できる「人生で起きた出来事や自分の弱さ、後悔に向き合い、前を見据える」という、ごく普遍的な思考プロセスを描いているに他ならない。​​​​​​​​​​​​​​​​

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

※マジック・リアリズム:現実の描写に神話や幻想といった非現実的な要素を自然に織り交ぜる芸術表現技法。

“演じて”しまいがちな人生

本作で印象的な会話がある。映画冒頭、デヴィッドがカーレンタルサービスで「役者でなくとも我々は人生において演技をしている」という言葉を投げかけられる場面だ。

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

デヴィッドは、理想の人生を追い求めるロマンティックな心を、家族関係や過去の失恋によって打ち砕かれてきた。サラもまた、過去の恋愛や喪失の経験から、自分を“幸せを壊してしまう加害者”のように捉えている。ふたりとも、自分の感情や願望に蓋をし、過去と現在と未来の狭間で立ち尽くし、人生を停滞させている。

そんな彼らは、いわば自身を見失い、「こう生きるべき」「諦めるべき」という役割を“演じて”いる。本来の自分が抱く素直な感情や願望から、目を背けてしまっているのだ。​​​​​​​​​​​​​​​​

リスクに踏み出せないふたりと、変化の旅路

踏み出すことはリスクであり、自分を傷つけるかもしれない行為だ。踏み出さないことは、自分を守ること。恋愛であれ家族関係や友人関係であれ、傷ついた経験があるなら、二人の気持ちや行動に共感できる人は多いはずだ。そこで立ち止まってしまえば、掴めるはずの幸せも掴めない——頭ではわかっていても、人生を重ね、後悔や傷が増えるほど、一歩を踏み出す勇気は失われていく。それは極めて自然なことだろう。

だが、そんな二人が経験する不思議な出来事は、彼らの人生に大きな変化をもたらす。そして、その変化の過程を目撃する我々観客もまた、彼らに共感するからこそ、同じような影響を受けずにはいられないはずだ。​​​​​​​​​​​​​​​​

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

コゴナダ監督の美学×名作映画の影響

ちなみに、『コロンバス』『アフター・ヤン』で様式的な映像美を追求してきたコゴナダ監督は、本作に大きな影響を与えた映画として『エターナル・サンシャイン』とスタジオジブリ映画『ハウルの動く城』の名を挙げている。

特殊な装置によって恋愛の記憶を辿り、人間関係の後悔や本質的な愛を描き出す前者は、本作とコンセプト的に通じるものがある。運命の出会いに導かれた不思議な世界で、ドアを通じて人生に影響を与える旅をする後者もまた、本作の設定に明らかな影響を与えていることがわかる。

説明不要の不思議な現象が、洒落た世界観のなかで現実世界と結びつく——その映像表現の美しさは、まさにコゴナダ監督ならではのものだ。​​​​​​​​​​​​​​​​

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』より

久石譲初のハリウッド映画音楽

それだけでなく、本作の音楽にも注目したい。コゴナダが憧れ続けてきたスタジオジブリ作品でおなじみの久石譲にオファーが届き、久石は偉大なキャリアで初となるハリウッド映画の音楽を手がけることとなった。

久石らしいノスタルジックなエモーションと、恋愛の機微を描く本作ならではのロマンティックさを兼ね備えた劇伴は、本作の世界観を形づくる重要なピースとして機能している。ここにきてハリウッド進出を果たした久石譲の、今後の可能性にも期待が高まるばかりだ。​​​​​​​​​​​​​​​​


人生には人それぞれ、悩みやターニングポイントがある。身を乗り出して本作を観た観客であれば、一つ二つ、あるいはもっと多くの、過去の自分に伝えたい言葉や、向き合い直したい人生の出来事が頭に浮かんでくるはずだ。そして本作から人生に持ち帰るものがあるなら、そこにこそ、この作品を鑑賞する最大の価値がある。​​​​​​​​​​​​​​​​

映画『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』は、12月19日(金)日本公開。

『ビューティフル・ジャーニー ふたりの時空旅行』

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