パク・チャヌク監督の新作『No Other Choice』の北米配給をNEONが担当へ。
韓国の巨匠パク・チャヌク監督の長編第12作『No Other Choice(英題)』の北米配給権を、映画スタジオNEONが獲得した。本作は『別れる決心』(22年)以来の劇場長編であり、NEONと監督は2023年の『オールド・ボーイ』再上映に続いて再びタッグを組むこととなる。
経済と暴力が交錯するブラックスリラー
本作『No Other Choice』は、アメリカの作家ドナルド・ウェストレイクによる小説『The Ax』(96年)を原作とするブラックコメディ・スリラー。物語の主人公は、長年勤めた製紙会社から突然解雇された男マンス(イ・ビョンホン)。再就職先を探す中で追い詰められた彼は、自分の職を奪う可能性のある“ライバルたち”の排除を決意する。
彼の妻ミリ役にはソン・イェジンがキャスティングされており、経済的不安の中でも夫を支える温かな存在として描かれる。パク・チャヌク監督はこの題材を通じ、個人の暴力性だけでなく、それを生み出す社会構造――とくに現代韓国が抱える雇用不安や競争主義の影――に鋭い視線を向けている。
なお、『The Ax』は2005年にコスタ=ガヴラス監督によりフランスで映画化されており、今回の韓国版はそれとは異なる文化的文脈での再解釈としても注目される。
『別れる決心』に続く注目作-NEONとCJ ENMが再タッグ
『No Other Choice』の製作は、韓国の大手スタジオCJ ENMが担当。配給を手がけるNEONとは、2020年にアカデミー作品賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』以来の協業となる。NEONとパク・チャヌク監督は、2023年に行われた『オールド・ボーイ』20周年記念の劇場再上映でもタッグを組んでおり、本作は両者にとって信頼関係を活かした新たな挑戦とも言える。
現在、本作はポストプロダクション段階にあり、2025年の賞レースシーズンに向けてNEONが北米市場での展開を本格化させると見られている。なお、初公開の場としてヴェネツィア国際映画祭が有力視されており、正式なラインナップ発表にも注目が集まっている。
キャストには主演のイ・ビョンホン、ソン・イェジンに加え、パク・ヒスン、イ・ソンミン、ヨム・ヘラン、チャ・スンウォン、ユ・ヨンソクといった実力派が顔をそろえる。プロデューサーにはパク・チャヌク本人のほか、フランス映画界の名匠ミシェル・レイ=ガヴラスとアレクサンドル・ガヴラスも名を連ね、国際共同製作の色合いも濃い。
社会背景を映し出す韓国映画の最新潮流
『No Other Choice』は、サスペンスとブラックコメディの要素を併せ持ちながら、韓国社会が抱える経済的不安や労働市場の厳しさを背景に描く社会派スリラーでもある。勤勉でまじめに働いてきた男が、一夜にして職を失い、極端な選択に追い込まれるというストーリーは、現代の資本主義社会における「競争」と「淘汰」の過酷さを鋭く突いている。
監督のパク・チャヌクは、これまでも『オールド・ボーイ』や『お嬢さん』などで極限状況に置かれた人間の心理を緻密に描いてきた。本作でも、表層的には犯罪スリラーでありながら、登場人物の内面や倫理観、そして社会構造への視点が織り込まれており、単なるエンターテインメントにとどまらない重層的な物語を構築している。
また、2022年の『別れる決心』がミステリーの形式を用いて愛と喪失の感情を掘り下げたように、今回もジャンルの枠を超えて人間の本質に迫ろうとする監督の姿勢がうかがえる。韓国映画の国際的評価が高まる中、パク監督による新たな一手は、観客にどのような問いを投げかけるのか注目される。



