【映画レビュー『メガロポリス』】“怪作”でなにが悪い-コッポラが超大作で突きつける現代のカオス

『メガロポリス』より、アダム・ドライバー&ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED REVIEWS
『メガロポリス』より、アダム・ドライバー&ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

フランシス・フォード・コッポラ監督の最新作『メガロポリス』が、6月20日(金)に日本公開される。『ゴッドファーザー』『地獄の黙示録』などの名作を生み出してきた巨匠が現代に放つ渾身の一作。現代アメリカをローマ帝国に見立てた近未来都市を舞台に、理想と現実の狭間で揺れる人々を描いた本作は、果たしてどのような作品に仕上がっていたのか。

『メガロポリス』あらすじ

『メガロポリス』より、アダム・ドライバー&ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

『メガロポリス』より、アダム・ドライバー&ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

物語の舞台は、21 世紀、アメリカをローマ帝国に⾒⽴てたニューローマ。そこでは享楽にふける富裕層と苦しい⽣活を強いられる貧困層の激しい格差が、社会問題化していた。新都市メガロポリスの開発を推進する天才建築家カエサル・カティリナ(アダム・ドライバー)と、財政難の中で利権に固執する市⻑のフランクリン・キケロ(ジャンカルロ・エスポジート)は真正⾯から対⽴する。また⼀族の策謀にも巻き込まれ、カエサルは絶体絶命の危機に直⾯するが──。

巨匠が描いた“奇怪で壮大な怪作”

フランシス・フォード・コッポラ監督が今の世の中を見つめ、純粋に作りたいものを作り上げた—それがこの作品を最も端的に表現する言葉だろう。これほどまでに奇怪でありながら壮大な怪作に、アダム・ドライバーをはじめとする豪華キャストと一流スタッフが結集し、目を見張るほど豪華絢爛な美術・映像を実現してしまう。それができるのは、やはりコッポラという巨匠の存在があってこそなのだ。

『メガロポリス』より、アダム・ドライバー © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

『メガロポリス』より、アダム・ドライバー © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

評価不能な“グダグダ”に宿る必然

ただし、純粋に映画作品として評価しようとすると、途端に判断が困難になる。なぜなら本作は、おそらく意図的に“グダグダ”でカオスな構造を選択しているからだ。現代のアメリカ、ひいては現代世界への皮肉を込めた風刺作品として企図されていることを考えれば、今の世の中の混沌ぶりを描くのに、理路整然とした美しい構成など不要どころか不適切だろう。

確かに、冗長で混沌とした展開は単調で退屈な印象を与えかねない。実際、英語圏では賛否両論が真っ二つに分かれているのも当然だろう。しかし、それでもなお、そうした構成を選ばざるを得ない必然性があったのだと考えざるを得ない。

『メガロポリス』より、ローレンス・フィッシュバーン © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

『メガロポリス』より、ローレンス・フィッシュバーン © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

現代社会の“縮図”としての混沌

本作に登場するのは、庶民感覚を欠いた理想論者、既得権益の保持に固執して変革を拒む権力者、野心のためにセクシャリティを武器にする策略家、そして道化じみたカリスマ性で享楽を煽る扇動者たち。一方で大衆は、こうした人物たちに翻弄されながら、時に盲目的に追従し狂乱し、時に不安と混乱の中で無力感に苛まれている。これはまさに現代社会の縮図そのものではないか。

『メガロポリス』より、ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

『メガロポリス』より、ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

だからこそ、この作品が賛否両論を呼ぶのも必然なのだろう。現代の混沌をありのまま提示することは、明確な未来への道筋を示していないと捉えられる可能性もある。確かに未来へのメッセージは断片的にしか描かれておらず、大部分は現代への辛辣な風刺に費やされている。そのため、そうした受け取り方をされても致し方ない面もあろう。

観客に委ねられた“問い”

本作を鑑賞して劇場を後にする観客が「結局何が言いたかったのか」と困惑して劇場を後にするか、「この混沌とした世界でいかに生きるべきか」という問いを胸に持ち帰るか—その判断は完全に個々の観客に委ねられているのだ。

こうした映画作りのアプローチを無条件に絶賛することはできないし、否定的な意見に対して強く反論する気にもなれないというのが正直なところだ。しかし、巨匠だからこそ実現可能な超大作規模のカオス・エンターテインメントが誕生し、特定の観客層に深く響き、広く議論を巻き起こす—それだけでも十分に意義のあることではないだろうか。

『メガロポリス』より、アダム・ドライバー&ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

『メガロポリス』より、アダム・ドライバー&ナタリー・エマニュエル © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

豪華俳優たちの光と影

ただし、これほど豪華なキャスト陣を揃えながら、作品全体のハチャメチャな雰囲気が先行してしまい、個々の俳優の魅力が十分に発揮されたとは言い難い。全員が持てる力を完全に開花させられたわけではないというのが実情だろう。

『メガロポリス』より、オーブリー・プラザ © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

『メガロポリス』より、オーブリー・プラザ © 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED

そんな中にあって、妖艶さと野心を兼ね備えたワオを演じたオーブリー・プラザと、激情的に世界をかき乱す象徴的な男性クローディオを体現したシャイア・ラブーフの二人は、確実に強烈な存在感を放っていた。混沌とした作品世界の中でも、彼らの演技は際立って印象に残るものだったと評価したい。

6月20日(金)より日本公開される『メガロポリス』は、賛否両論を覚悟の上で作られた問題作と言えるだろう。万人受けを狙った作品ではないが、コッポラ監督だからこそ実現できた壮大な実験的映画として論争の的となり、映画史に確実に名を刻むことになる。混沌とした現代社会への鋭い視線と、それでも希望を捨てない人間への眼差しを感じ取れるかどうか—それをどう受け止めるかは、スクリーンを見つめるあなた次第だ。

作品情報

タイトル:メガロポリス
原題:Megalopolis
製作・監督・脚本:フランシス・フォード・コッポラ
出演:アダム・ドライバー、ジャンカルロ・エスポジート、ナタリー・エマニュエル、オーブリー・プラザ、シャイア・ラブーフ、ジョン・ ヴォイト、ローレンス・フィッシュバーン、タリア・シャイア、ジェイソン・シュワルツマン
2024年|アメリカ|英語|138分|5.1ch(7.1ch)|カラー
© 2024 CAESAR FILM LLC ALL RIGHTS RESERVED
配給:ハーク、松竹

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