『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』の撮影現場で、ジャスティン・バルドーニ監督が事前合意なく主演俳優ブレイク・ライヴリーにキスを迫った映像が物議を醸している。
映画『ふたりで終わらせる/IT ENDS WITH US』の撮影現場から流出した舞台裏映像が、大きな波紋を呼んでいる。この映像には、スローダンスシーンの撮影中に、監督兼共演のジャスティン・バルドーニが、主演のブレイク・ライブリーに対して事前合意のないキスを試みる様子が収められている。
バルドーニの法律チームは、この映像をThe Daily Mailに提供。ライブリーが2023年12月にニューヨークで起こした、セクハラと中傷キャンペーンに関する訴訟の主要な告発を否定する証拠だと主張している。一方のバルドーニは、ライブリーと夫のライアン・レイノルズに対し、中傷キャンペーンなどを理由に4億ドルの損害賠償を求める訴訟を先週起こした。
2023年5月に撮影された約10分の問題の映像は、2016年のコリーン・フーヴァーの小説を原作とする本作から、ライブリーとバルドーニが演じるリリーとライルのロマンスが始まるシーンの3テイクを収めたものである。米ハリウッド・リポーター誌の報道では、ドラマシリーズ「レッスン in ケミストリー」や「アメリカン・クライム・ストーリー」で働いたインティマシー・コーディネーターのミア・シャクター氏によるこの映像の分析が行われている。
「事前合意のないキス」で議論勃発-インティマシー・コーディネーターが警鐘
シャクターによると、この映像で最も問題視されるのは、バルドーニが事前の相談なくキスを試み、ライブリーが明確に拒否の意思を示していた点だという。
「通常、インティマシー・コーディネーターは、シミュレートされたセックスシーンやヌードシーンに立ち会います。この作品にもふたりのコーディネーターがいましたが、単なるスローダンスシーンには立ち会わないのが一般的です。ただし、もし現場にいれば『キスはしません。これが許容される接触の範囲です』と、事前に明確な線引きをしていたはずです」とシャクターは説明する。
スター女優と監督の複雑な力関係
映画界での知名度の高さから、ライブリーには一定の発言力があるものの、監督と俳優という関係性において、彼女は撮影を円滑に進めるため協力的な態度を取らざるを得なかったとシャクターは分析する。
「ライブリーは、他の俳優なら躊躇するような発言も可能な立場にいます。しかし監督との良好な関係性を保ち、撮影を滞りなく進める必要もある。彼女は明るく前向きな態度で対応しようとしていましたが、それは彼女が板挟みの状況に置かれていたことを示唆しています」
この見解について、シャクターは「バルドーニのチームがこの映像を証拠として提示したことに驚きを感じます。映像は逆に、セット内での複雑な力関係を浮き彫りにしているからです」と付け加えた。
事前の打ち合わせが欠如した演出の問題点
映像をバルドーニ側の潔白の証拠とする見方に対し、シャクターは異なる見解を示す。「スター俳優であっても、監督と俳優という関係性において、監督が最終的な責任者です。このような場面では、事前の打ち合わせが不可欠だったのです」
シャクターは、インティマシー・コーディネーターとしての理想的な対応も解説する。「準備段階で監督の意図を確認し、『キスをしたい』『首筋にキスをしたい』といった具体的な要望を引き出します。その上で、女優と相談し、許容できる範囲を明確にします。俳優は通常、事前に計画を知らされていれば、新しい挑戦に前向きなものです」
即興的な展開がもたらした複雑な状況
台本では単なるスローダンスシーンとして記載されており、肉体的な親密さへの言及はなかった。シャクターによれば、映像に収められた会話自体は、実生活のパートナーについて語るなど不適切とは言えないものだった。
しかし、ライブリーの訴訟で指摘されているような不適切な発言があった場合は別だという。「監督による不適切な発言があれば介入が必要です。ただし、それは同時にコーディネーターを難しい立場に追い込みます。監督のプライドを刺激して撮影が滞ることを恐れれば、介入した側が悪者になりかねないのです」
キャラクターの境界線を超えた発言の波紋
撮影時の対話について、シャクターは微妙な境界線の問題を指摘する。映像には、バルドーニが自身のヒゲについて謝り、ライブリーがスプレータンについて謝る場面が含まれている。その際、バルドーニが「いい香りがする」と発言したことが、訴訟の争点のひとつとなっている。
「演じているキャラクターとしての発言なら理解できます。しかし、キャラクターを離れた発言として、それ自体は不適切とは言えなくても、不快な出来事が積み重なっていた文脈では、一線を越えた言動として受け止められても不思議ではありません」とシャクターは分析する。
ハリウッドに求められる「新しい基準」と監督の責任
The Daily Mailは「誰が嘘をついているのか?」という見出しでこの問題を報じたが、シャクターは異なる視点を示す。「これは嘘の問題ではなく、プロフェッショナリズムとエチケットをめぐる認識の違いです。『全て自然な流れであるべき』という古い考え方は、もはや通用しません」
最後にシャクターは、インティマシー・コーディネーター不在の現場での監督の責任について言及した。「キスシーンを撮りたければ、まず相手の同意を得るべきでした。しかしバルドーニは、ライブリーが身を引いた後も同じ行為を繰り返しています。俳優としても監督としても、これは重大な問題です」
ハリウッドでは、インティマシー・コーディネーターの重要性が増している。今回の事件が、映画制作現場でのプロフェッショナリズム向上につながる契機となることを期待したい。
