映画『エクスペリメント』(2010)を紹介&解説。
映画『エクスペリメント』概要
映画『エクスペリメント』は、1971年に実施された“スタンフォード監獄実験”をモチーフとするドイツ映画『es[エス]』を、ドラマ「プリズン・ブレイク」の生みの親ポール・T・シェアリングがリメイクした心理スリラー。報酬を目当てに集まった男たちが看守役と囚人役に分けられ、模擬刑務所で生活する中、与えられた立場と権力によって変貌していく姿を描く。主演はエイドリアン・ブロディ。共演にフォレスト・ウィテカー、キャム・ギガンデット、クリフトン・コリンズ・Jrら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『エクスペリメント』 |
|---|---|
| 原題 | The Experiment |
| 製作年 | 2010年 |
| 本国公開日 | 2010年9月21日(米国DVD・Blu-ray発売) |
| 日本公開日 | 2010年12月4日 |
| ジャンル | 心理スリラー/ドラマ |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作・原案 | マリオ・ジョルダーノ『Black Box』(小説)/映画『es[エス]』(2001) |
| 上映時間 | 97分 |
| 映倫区分 | R15+ |
| 監督・脚本 | ポール・T・シュアリング |
|---|---|
| オリジナル脚本 | マリオ・ジョルダーノ/ドン・ボーリンガー/クリストフ・ダルンスタット |
| 製作 | マーティ・アデルスタイン/ビル・ジョンソン/ジャネット・ビュアリング=ミリオ/マギー・モンティース/スコット・ニーミス/ドーン・パローズ/ポール・T・シェアリング |
| 製作総指揮 | ジム・セイベル/トレイシー・スタンリー/ジョン・マイケルズ/マッティ・ベッカーマン/アル=サーディ・カダフィ |
| 撮影 | エイミー・ヴィンセント |
| 編集 | ピーター・S・エリオット |
| 作曲 | グレーム・レヴェル |
| 出演 | エイドリアン・ブロディ/フォレスト・ウィテカー/キャム・ギガンデット/クリフトン・コリンズ・Jr./イーサン・コーン/フィッシャー・スティーヴンス/マギー・グレイス |
| 製作 | ステージ6・フィルムズ/アライアンス・シネマ/マグネット・メディア・グループ |
| 配給 | ソニー・ピクチャーズ・ホームエンタテインメント(米国)/日活(日本) |
あらすじ
失業中のトラヴィスは、1日1,000ドルの報酬にひかれ、2週間にわたって行われる心理実験に参加する。集められた男たちは看守役と囚人役に分けられ、本物の刑務所を模した施設で規則に従って暮らすことになった。
囚人役となったトラヴィスに対し、気弱で抑圧された性格のバリスは看守役に選ばれる。暴力が発生すれば実験は直ちに中止されるはずだったが、看守たちは次第に権力へ酔い、囚人たちを屈服させるための制裁をエスカレートさせていく。やがて実験は統制を失い、両陣営の尊厳と生命を脅かす状況へと変貌していく。
主な登場人物(キャスト)
トラヴィス(エイドリアン・ブロディ):失業をきっかけに、高額報酬を得られる心理実験へ参加した男性。反戦運動に加わるなど平和主義的な考えを持ち、実験では囚人役に振り分けられる。看守たちによる理不尽な支配に抵抗し、囚人側の中心的存在となっていく。
マイケル・バリス(フォレスト・ウィテカー):病気の母親と暮らし、その治療費を得るために実験へ参加した男性。実験では看守役に選ばれる。当初は暴力的な参加者を警戒していたが、権限を与えられたことで次第に支配欲と攻撃性をむき出しにしていく。
チェイス(キャム・ギガンデット):看守役となった参加者のひとり。粗暴かつ挑発的な性格で、囚人たちに対する威圧や屈辱的な制裁を率先して行い、実験が暴走するきっかけを作る。
ニックス(クリフトン・コリンズ・Jr.):トラヴィスと同じ房に入れられた囚人役の男性。実際に刑務所へ収監された経験を持ち、実験の環境や看守たちの危険性を早い段階から警戒する。
ベンジー(イーサン・コーン):トラヴィス、ニックスと同じ房で生活する囚人役の男性。糖尿病を患っていることを隠して実験へ参加しており、閉鎖環境の中で次第に体調を悪化させていく。
アーチャレータ博士(フィッシャー・スティーヴンス):参加希望者の面接を行い、模擬刑務所での実験を管理する研究者。暴力が発生した場合は実験を中止すると参加者たちに説明する。
ベイ(マギー・グレイス):トラヴィスが実験へ参加する前に出会った女性。インドへの旅行を計画しており、短い交流を通してトラヴィスと親密な関係になる。
作品の魅力解説
本作が題材とするのは、参加者を看守役と囚人役に分け、与えられた立場が人間の行動へどのような影響を及ぼすのかを調べた“スタンフォード監獄実験”。閉鎖された模擬刑務所と厳格な規則を用意し、ごく普通の参加者たちが権力を持つ側と服従を強いられる側へ分断されていく過程を、心理スリラーとして描いている。
もっとも、その展開は「権力を与えられた看守が暴走する」という有名な実験のイメージをほぼ直線的になぞるものでもある。看守側の制裁が次々と過激になり、囚人側の怒りと反抗が膨らんでいく構成は緊張感を生む一方、狂気と攻撃性のエスカレートが長く続くため、物語としては一辺倒になりやすい。実験の顛末を超える新たな心理的洞察や、登場人物の変化を掘り下げるドラマが十分に加えられているとは言い難く、題材自体のインパクトに頼っている部分は否めない。
一方、作品を支えているのが、エイドリアン・ブロディとフォレスト・ウィテカーという実力派俳優の対峙である。ブロディは、屈辱を受けながらも看守の支配へ抵抗するトラヴィスの怒りと反骨心を身体的に表現。対するウィテカーは、気弱で従属的だったバリスが、制服と権限を与えられたことで別人のように変貌していく過程を演じている。
特にウィテカーの演技は、人物の内側に潜んでいた悪魔が徐々に覚醒していくかのような不気味さを帯びる。口調や視線、姿勢までが変化し、規則を守らせるという名目が個人的な支配欲へすり替わっていく様子には、物語上の単調さを補うほどの迫力がある。有名な実験を映画化したこと以上に、権力によって変貌する人間を体現したウィテカーの演技が、本作最大の見どころといえるだろう。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
