映画『ブラック・スワン』(2010)を紹介&解説。
映画『ブラック・スワン』概要
映画『ブラック・スワン』は、ダーレン・アロノフスキー監督(『レスラー』)が、バレエ「白鳥の湖」の主役に抜擢されたバレリーナのニナが、白鳥と黒鳥という正反対の二面性を演じ切ろうとする中で精神的に追い詰められていく姿を描いた心理スリラー。
主演はナタリー・ポートマン、共演にミラ・クニス、ヴァンサン・カッセル、バーバラ・ハーシー、ウィノナ・ライダーら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『ブラック・スワン』 |
|---|---|
| 原題 | Black Swan |
| 製作年 | 2010年 |
| 本国公開日 | 2010年12月3日 |
| 日本公開日 | 2011年5月11日 |
| ジャンル | ドラマ/スリラー |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 108分 |
| 監督 | ダーレン・アロノフスキー |
|---|---|
| 脚本 | マーク・ヘイマン/アンドレス・ハインツ/ジョン・マクラフリン |
| 製作 | マイク・メダヴォイ/アーノルド・W・メッサー/ブライアン・オリヴァー/スコット・フランクリン |
| 製作総指揮 | ブラッドリー・J・フィッシャー/ピーター・フルクトマン/アリ・ハンデル/ジョン・アヴネット/リック・シュワルツ/タイラー・トンプソン/デヴィッド・スウェイツ/ジェニファー・ロス |
| 撮影 | マシュー・リバティーク |
| 編集 | アンドリュー・ワイスブラム |
| 作曲 | クリント・マンセル |
| 出演 | ナタリー・ポートマン/ミラ・クニス/ヴァンサン・カッセル/バーバラ・ハーシー/ウィノナ・ライダー/バンジャマン・ミルピエ |
| 製作 | フォックス・サーチライト・ピクチャーズ/プロトゾア・ピクチャーズ/フェニックス・ピクチャーズ/クロス・クリーク・ピクチャーズ |
| 配給 | フォックス・サーチライト・ピクチャーズ(米国)/20世紀フォックス映画(日本) |
あらすじ
ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナは、人生のすべてをバレエに捧げる完璧主義のダンサー。新シーズンの「白鳥の湖」で、純真な白鳥と官能的な黒鳥の両方を演じるプリマに抜擢される。
繊細で可憐な白鳥を演じることには長けている一方、自由で誘惑的な黒鳥を表現することに苦戦するニナ。そんな彼女の前に、自分にはない奔放さと官能性を持つダンサー、リリーが現れる。
主役を守らなければならないという重圧、リリーへの嫉妬、母親との関係、そして完璧な舞台を求める執念。追い詰められていくニナの周囲では、次第に現実と幻覚の境界が崩れ始める。
主な登場人物(キャスト)
ニナ・セイヤーズ(ナタリー・ポートマン):ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するダンサー。高い技術と繊細さを持ち、「白鳥の湖」の白鳥と黒鳥を一人二役で演じるプリマに抜擢される。完璧を求めるあまり、次第に精神的な均衡を失っていく。
リリー(ミラ・クニス):カンパニーに加わった奔放なダンサー。ニナとは対照的に自由で官能的な魅力を持ち、黒鳥を思わせる存在としてニナを刺激する。ニナから次第にライバルとして意識されるようになる。
トーマス・ルロイ(ヴァンサン・カッセル):バレエ・カンパニーの芸術監督。「白鳥の湖」でニナを主役に抜擢する一方、彼女に白鳥だけでなく黒鳥の官能性と解放感を身につけるよう要求する。
エリカ・セイヤーズ(バーバラ・ハーシー):ニナの母親で元バレエダンサー。娘の生活やキャリアを献身的に支える一方、過保護なほど強く干渉し、ニナを精神的に束縛している。
ベス・マッキンタイア(ウィノナ・ライダー):カンパニーを代表してきたベテランのプリマ。トーマスによって第一線から退かされることになり、その後継者となったニナにとって憧れと恐怖の両方を象徴する存在となる。
作品の魅力解説・レビュー
ナタリー・ポートマンといえば『ブラック・スワン』
「ナタリー・ポートマンといえば」と問われて筆者が真っ先に思い浮かぶのは、やはり本作だ。今ほど映画漬けではなかった中学生の頃に観て、彼女の演技と、作品全体を覆う異様な世界観にすっかり圧倒された。
もっとも、そうした思い出を差し引いてなお、本作でのナタリー・ポートマンの演技は圧巻というほかない。神経質で完璧主義なニナは、舞台上の理想へ近づこうとすればするほど、自らの内に潜むもう一つの顔をむき出しにしていく。その変貌のプロセスこそが、本作最大の見どころなのだ。
現実と幻覚の境界を溶かす、狂気と官能性
本作をこれほど強烈に印象づけているのは、全編を覆う狂気とエロティシズムの気配だろう。
プレッシャーに押し潰されかけたとき、他人への嫉妬が膨らんだとき、自分への自信が揺らいだとき——ニナの感情が均衡を失うたびに、それが現実なのか幻覚なのか、初見ではにわかに判別しがたい出来事が立て続けに起こり始める。鏡像や身体の変異を用いた映像表現が、その心もとなさをいっそう煽り立てる。
おぞましく、不穏で、思わず目を背けたくなる瞬間が続くにもかかわらず、それでもこの先に何が待つのかを見届けずにはいられない。この危うい牽引力こそが、『ブラック・スワン』にしか宿しえない魅力だ。
可憐な白鳥から恐ろしい黒鳥へ、主演女優賞も納得の豹変
公開当時から大きな話題をさらったナタリー・ポートマンの“豹変”は、やはり本作最大の見どころだろう。
白鳥を演じるニナは、繊細で可憐で、触れれば壊れてしまいそうなほど儚い。ところが黒鳥として舞台に立った瞬間、彼女はそれまでとはまるで別人のような妖艶さと凄みを身にまとう。「白鳥の湖」が要求する正反対の二役を生きるニナ、そしてそのニナを演じ切るナタリー・ポートマン——この二重構造ゆえに、役者の変貌そのものが物語のクライマックスと分かちがたく重なっていく。
第83回アカデミー賞主演女優賞の受賞にも深く頷ける、キャリアを代表する演技のひとつだ。
「完璧」を求めることそのものが恐怖になる
『ブラック・スワン』が単なるバレエ映画にも幻覚スリラーにも終わらないのは、“完璧でありたい”という欲望そのものを恐怖へと転じてみせるからだ。
ニナを追い詰めるのは、姿かたちの分かりやすい怪物ではない。主役の座を奪われるのではという焦燥、他人への嫉妬、母親からの束縛、演出家からの要求、そして何より、自分自身が課した高すぎる理想である。美しい舞台を完成させんとするあまり、彼女は自らの肉体も精神も限界まで追い込んでいく。
華麗なバレエと、身体的・心理的なホラーとが表裏一体をなす作品だからこそ、観終えたあとにも強烈な余韻を残すのだ。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
