新作映画『アウトウォーターズ 裂けた砂漠』 を紹介&解説するレビュー。
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映画『アウトウォーターズ 裂けた砂漠』が、6月26日(金)日本公開を迎える。本作は、モハーヴェ砂漠でミュージックビデオ撮影を行う4人の若者たちが、説明不能な異常現象に巻き込まれていくファウンドフッテージ・ホラーだ。だが、その作りはジャンルの定型に収まらない。視界を奪う暗闇、意味を結ばない断片的な映像、耳にこびりつく不穏な音響。本作は、観客に“何が起きたのか”を理解させるよりも、“分からないまま恐怖の中に置き去りにされる感覚”を浴びせてくる。賛否が分かれることは避けられない。それでも、説明されないからこそ深く考えたくなる、奇妙な余白を持った一本である。
説明を拒むからこそ、深く残る異形のホラー
『アウトウォーターズ 裂けた砂漠』は、ひと言でいえば極めて意欲的なファウンドフッテージ・ホラーである。同時に、観る者をかなり選ぶ作品でもある。何が起きているのか、なぜ起きているのか、キャラクターたちが何に巻き込まれているのか。本作は、そのほとんどを明確には説明しない。観客は暗闇の中に放り出され、断片的な映像と音だけを手がかりに、理解不能な現象のただ中を進んでいくことになる。
そのため、物語に明快な答えや整理された結末を求める観客にとっては、かなり厳しい作品だろう。視界は悪く、状況はつかみにくく、恐怖の正体も最後まで判然としない。だが、その不親切さこそが本作の個性でもある。これは「こういうことでした」と答え合わせをする映画ではなく、説明不能な現象に呑み込まれる感覚そのものを体験させる映画なのだ。
だからこそ、賛否が分かれるのは当然である。むしろ、その賛否の分裂まで含めて、本作のあり方は非常にホラーらしい。理解できないものを理解できないまま受け止める。その不安定さを楽しめる観客にとって、本作は強烈な余韻を残す一本になるはずだ。
“見せない”ことで想像力を暴走させる映像表現
本作が特に興味深いのは、ファウンドフッテージという形式を、単なる臨場感の演出にとどめていない点である。記録映像は本来、整いすぎていないことに魅力がある。手ブレ、ピントの甘さ、暗所での不鮮明さ、偶然撮れてしまったような粗さ。そうした不完全さが、逆に「本当にそこにあった映像」のような生々しさを生む。
本作は、その特性をさらに極端な方向へ押し進めている。とにかく見せない。後半になると、観客はほとんど何も見えない暗闇の中に置き去りにされる。懐中電灯のわずかな光、画面の端をかすめる血や肉体の断片、遠くで何かがうごめく気配。それらは全体像を提示するためではなく、観客の想像を刺激するために置かれている。
いわば本作は、映像作品でありながら、映像をあえて欠落させることで恐怖を生み出している。見えないからこそ、観客は頭の中で補完してしまう。箱の中に羊がいると聞かされれば、それぞれが自分なりの羊を想像するように、本作の暗闇の中では、それぞれが自分にとって最も嫌なものを思い描くことになる。
もちろん、ここは大きな分岐点でもある。映像としての明快な恐怖を求める人には、「ただ暗くて何も分からない」と映るかもしれない。一方で、見えない余白にこそ恐怖を感じる人にとっては、これほど想像力をかき乱される映画もそう多くない。映画という視覚メディアでありながら、あえて視覚を制限する。その逆説的な表現に、本作の面白さがある。
暗闇を支配する音響と、忘れがたい異物感
そして、視界を奪う作品だからこそ、音響の存在感は非常に大きい。本作』の恐怖は、目で見るというより、耳で浴びるものに近い。暗闇の中で聞こえる不快な音、雷鳴のようでありながら自然音とは言い切れない轟き、遠くから響く悲鳴、肉体が損壊していることを想像させる湿った効果音。それらが積み重なり、画面に映らない恐怖を観客の頭の中に立ち上げていく。
特に後半は、音がほとんど映像の代わりを担っている。何かが近づいてくる。何かが裂けている。何かが這っている。はっきり見えないからこそ、音だけが状況を告げる。その結果、本作の砂漠は単なるロケーションではなく、時間も空間も肉体も歪んでいく異常領域として立ち上がってくる。
一方で、音響が作り込まれているからこそ、本作は純粋な意味での“未加工の記録映像”とは少し異なる印象も受ける。ファウンドフッテージの形式を取りながら、実際にはかなり演出的で、抽象ホラーやコズミックホラーに近い感触がある。そのズレをどう受け止めるかによって、評価はまた分かれるだろう。
それでも、『アウトウォーターズ 裂けた砂漠』が印象に残る作品であることは間違いない。分かりやすく怖がらせるのではなく、分からないまま不快なものを浴びせてくる。説明されないこと、見えないこと、聞こえてしまうこと。そのすべてを恐怖へと変換する、奇妙で野心的な一本である。
『アウトウォーターズ 裂けた砂漠』は、明快な恐怖や整理された物語を求める観客には、かなり過酷な作品だろう。だが、暗闇の中で見えないものを想像し、音の奥にある異常を感じ取り、答えのない現象について考え続けることに面白さを見出せるなら、本作は強烈な体験になる。6月26日(金)日本公開の本作は、ファウンドフッテージ・ホラーの形式を使いながら、むしろ“見せないこと”によって恐怖を拡張していく意欲作だ。理解する映画というより、呑み込まれる映画。だからこそ、観終わったあとも、その不可解な暗闇と音がしばらく頭から離れない。
