映画『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)を紹介&解説。
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』概要
映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は、アカデミー賞長編アニメーション賞を受賞した、ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン監督による、革新的な映像表現が光るアニメーションアクション。新たなスパイダーマンとなった少年が、別次元から集まった仲間たちと世界の危機に立ち向かう青春譚でもある。声の出演はシャメイク・ムーア、ジェイク・ジョンソンら。
作品情報
日本版タイトル:『スパイダーマン:スパイダーバース』
原題:Spider-Man: Into the Spider-Verse
製作年:2018年
日本公開日:2019年3月8日
ジャンル:アニメーション/アクション/SF
製作国:アメリカ
原作:マーベル・コミックス
上映時間:117分
次作:『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
監督:ボブ・ペルシケッティ/ピーター・ラムジー/ロドニー・ロスマン
脚本:フィル・ロード/ロドニー・ロスマン
製作:アヴィ・アラッド/エイミー・パスカル/フィル・ロード/クリストファー・ミラー/クリスティーナ・スタインバーグ
製作総指揮:スタン・リー/ブライアン・マイケル・ベンディス/ウィル・アレグラ
撮影:—
編集:ロバート・フィッシャー・ジュニア
作曲:ダニエル・ペンバートン
出演:シャメイク・ムーア/ジェイク・ジョンソン/ヘイリー・スタインフェルド/マハーシャラ・アリ/ブライアン・タイリー・ヘンリー/リーヴ・シュレイバー/リリー・トムリン/ローレン・ヴェレス/ニコラス・ケイジ/キミコ・グレン
製作:コロンビア・ピクチャーズ/ソニー・ピクチャーズ・アニメーション/マーベル・エンターテインメント
配給:ソニー・ピクチャーズ・リリーシング
あらすじ
現代のニューヨーク。ブルックリンに暮らす高校生マイルスは、偶然クモに噛まれ特別な力に目覚める。その直後、異次元をつなぐ装置の暴走により、別世界から複数のスパイダーマンが現れる。混乱の中でマイルスは仲間とともに、自らの使命と向き合いながら世界の崩壊を阻止しようとする。
主な登場人物(キャスト)
マイルス・モラレス(シャメイク・ムーア):ブルックリンに暮らす高校生。偶然クモに噛まれスパイダーマンの力を得た新たな主人公で、戸惑いながらも自らの役割を模索していく。
ピーター・B・パーカー(ジェイク・ジョンソン):別次元から来たスパイダーマン。かつての輝きを失い私生活に問題を抱えるが、マイルスの成長を導く存在となる。
グウェン・ステイシー/スパイダー・グウェン(ヘイリー・スタインフェルド):異なる世界から来たスパイダーヒーロー。高い戦闘能力と冷静さを持ち、過去の出来事に葛藤を抱える。
アーロン・デイビス/プラウラー(マハーシャラ・アリ):マイルスの叔父であり、裏では犯罪者として活動するヴィラン。家族としての情と立場の間で揺れる。
ジェファーソン・デイビス(ブライアン・タイリー・ヘンリー):マイルスの父で警察官。正義感が強く、息子との関係に悩みながらも成長を見守る。
ウィルソン・フィスク/キングピン(リーヴ・シュレイバー):裏社会を支配する犯罪王。本作の中心的な敵であり、物語の発端となる事件を引き起こす。
メイ・パーカー(リリー・トムリン):ピーター・パーカーの叔母。ヒーローたちを支える理解者であり、拠点や装備を提供する存在。
リオ・モラレス(ルナ・ローレン・ヴェレス):マイルスの母。医療従事者として働き、温かく息子を支える家庭の中心的存在。
スパイダーマン・ノワール(ニコラス・ケイジ):1930年代の世界から来たスパイダーマン。モノクロ調の世界観と独特の語り口を持つ。
ペニー・パーカー(キミコ・グレン):日本のアニメ風の世界から来た少女。クモとリンクし巨大ロボ「SP//dr」を操縦して戦う。
主な受賞&ノミネート歴
アカデミー賞
第91回長編アニメ映画賞受賞。
ゴールデングローブ賞
第76回長編アニメ映画賞受賞。
英国アカデミー賞(BAFTA)
2019年長編アニメ映画賞受賞。
アニー賞
15ノミネート、7受賞。
ニューヨーク映画批評家協会賞
2018年長編アニメ映画賞受賞。
内容(ネタバレ)
マイルスの日常と“もうひとりの主人公”の存在
物語は、ニューヨークで人々から愛されるスパイダーマン=ピーター・パーカーの語りから始まる。一方で、ブルックリンに暮らす少年マイルス・モラレスは、新しい学校になじめず、警察官の父ジェファーソンとの距離感にも戸惑いを抱えている。叔父アーロンと過ごす時間だけが、彼にとって少し肩の力を抜けるひとときになっている。
クモに噛まれたマイルスと、巨大装置をめぐる異変
アーロンに連れられて地下の廃駅へ行ったマイルスは、そこで見慣れないクモに噛まれ、身体に異変が起き始める。自分の力に困惑したまま再びその場所を訪れると、地下ではキングピンが並行世界をつなぐ巨大な衝突装置を稼働させようとしていた。そこへスパイダーマンが現れ、装置の停止を試みるが、グリーン・ゴブリンやプラウラーとの戦いの末に致命傷を負ってしまう。ピーターはマイルスに、装置を止めるためのUSBメモリを託す。
“スパイダーマンの死”と、後を継ぐことへの戸惑い
マイルスはスパイダーマンが命を落とす場面を目撃し、大きな衝撃を受ける。街全体がヒーローの死を悼む中、彼もまたその遺志を継ごうとするが、新たに得た力をまったく制御できない。しかも、託されたUSBメモリまで壊してしまい、自分が新たなスパイダーマンになれるのか強い不安を抱えることになる。
別次元のスパイダーマンたちとの出会い
そんな中、マイルスはピーターの墓前で、自分の世界のピーターとは別人の“ピーター・B・パーカー”と出会う。彼もまた別次元から飛ばされてきたスパイダーマンだった。ふたりは新しいUSBメモリを作る手がかりを求めて行動を始め、やがてグウェン・ステイシーも別世界から来ていたことが明らかになる。さらにメイ・パーカーのもとには、スパイダーマン・ノワール、ペニー・パーカー、スパイダー・ハムも集まっており、衝突装置の影響で複数の次元が混線していることがわかる。
中盤までの到達点
物語の中盤では、マイルスが“自分も仲間として戦いたい”と願う一方で、他のスパイダーマンたちからはまだ未熟だと見なされる。世界を救う鍵を握りながらも、彼はヒーローとしてもひとりの少年としても、自分の居場所を見つけられずにもがいている段階にある。
叔父の正体と喪失、ヒーローとしての覚醒の契機
マイルスは叔父アーロンがヴィラン“プラウラー”であることを知り、動揺する。戦闘の中で正体が露見したことで、アーロンはマイルスを手にかけることができず、その結果キングピンに撃たれて命を落とす。父ジェファーソンは現場に駆けつけるが、スパイダーマンの正体に気づかず誤解を抱く。大切な存在を失ったことで、マイルスは自分の無力さと向き合うことになる。
仲間との決裂と“選ばれる側ではない”現実
他のスパイダーマンたちは、未熟なマイルスを危険から遠ざけるため戦いに参加させない決断を下す。ピーター・B・パーカーは彼を守るため、あえて拘束して戦場から外す。ヒーローとして認められない現実に直面したマイルスは、自分が“選ばれた存在”ではないのではないかという葛藤を抱える。
父の言葉と、自ら選ぶ“スパイダーマン”としての決意
閉じ込められたマイルスのもとに父が訪れ、扉越しに語りかける。息子への愛と信頼を伝える言葉は、マイルスの背中を押す決定的なきっかけとなる。彼はついに能力を制御し、自らの意思でヒーローとして立つ決意を固める。そして独自のスーツをまとい、“自分だけのスパイダーマン”として戦いに向かう。
最終決戦―次元崩壊を止める戦い
再び衝突装置のもとに集結したスパイダーマンたちは、キングピンとその配下に立ち向かう。マイルスは仲間と連携しながら敵を退け、完成した装置停止用のデータを使って仲間たちをそれぞれの世界へ送り返していく。異なる次元から来たヒーローたちは、別れを受け入れながら元の世界へ戻っていく。
キングピンとの決着と、ヒーローの誕生
最後に残ったマイルスはキングピンと対峙する。圧倒的な力に押されながらも、父の言葉とこれまでの経験を糧に反撃し、装置の破壊に成功。次元崩壊の危機を食い止める。事件の証拠も明らかとなり、キングピンは逮捕される。
ラスト―“自分の物語”としてのスパイダーマン
事件後、マイルスは新たなスパイダーマンとして街を守る存在となる。ヒーローとは“選ばれるものではなく、自ら選ぶもの”であると示す形で、彼の物語はひとつの到達点を迎える。そして別次元のグウェンからの呼びかけが届き、物語はさらなる広がりを予感させて幕を閉じる。
作品解説|魅力&テーマ
“誰でもスパイダーマンになれる”という普遍的なメッセージ
本作の核にあるのは、「ヒーローは特別な存在ではない」という価値観である。脚本を手がけたフィル・ロードら制作陣は、スパイダーマンという存在を一部の選ばれた人物ではなく、“誰もがなり得る存在”として再定義している。主人公マイルス・モラレスは、力を得た直後からヒーローとして完成されているわけではなく、戸惑いや失敗を重ねながら、自らの意思でその役割を選び取っていく。その過程は、「選ばれたからヒーローになる」のではなく、「選ぶことでヒーローになる」という本作の思想を体現している。また、異なる背景や個性を持つ複数のスパイダーマンの存在は、“違っていてもいい”という包括性を物語に与え、観客一人ひとりに「自分もまたヒーローになり得る」という感覚を強く提示する。
“成長”と“継承”を描く青春映画としての構造
本作はスーパーヒーロー映画であると同時に、ひとりの少年が自らの役割を受け入れていく“成長譚”として緻密に構築されている。マイルスは力を得てもなお未熟であり、失敗や喪失、他者との出会いを通じて徐々に自分の在り方を見出していく。その過程は、外的な試練だけでなく内面的な葛藤を伴い、“ヒーローになるとはどういうことか”を問い続けるものでもある。さらに物語には、ピーター・B・パーカーという存在を介した“継承”の構造が組み込まれている。かつてのヒーローが不完全なまま次世代へと役割を手渡し、それを受け取った側が自分なりの形で再定義していく。この二重構造によって、本作は単なるオリジンストーリーにとどまらず、ヒーロー像そのものを更新する物語として機能している。
コミック体験を映画化した革新的ビジュアルと語り
本作のもうひとつの大きな魅力は、映像表現そのものにある。制作陣は「コミックを読む体験をそのまま映画にする」ことを目指し、CGと手描き、ポップアート的表現を融合させた独自のスタイルを構築した。このビジュアルは単なる装飾ではなく、“複数の世界が交差する物語構造”や“多様なスパイダーマン”というテーマと直結しており、物語と表現が完全に一致している点が本作の革新性である。
作品トリビア
“コミックをそのまま映画にする”ために常識を破った映像設計
本作の最大の特徴であるビジュアルは、単なるCGではなく「コミックの中に入り込む体験」を目指して設計されたもの。制作陣はCGに手描きの線やドット、色ズレなどを重ね、1コマごとに“漫画のパネル”のように仕上げている。さらにモーションブラーを排除し、あえて古いアニメーション技法を採用するなど、従来のハリウッドアニメの常識を意図的に崩している。
キャラクターごとに“動きのフレーム数”を変えていた
本作では同じシーン内でもキャラクターごとにフレームレートが異なる。例えば未熟なマイルスは12コマでぎこちなく動かし、経験豊富なピーターは24コマで滑らかに動かすことで、成長段階の違いを視覚的に表現している。この手法は物語と演出を直接結びつけた、極めて珍しい試みである。
制作初期の絵コンテは“2時間超え”という異例のボリューム
通常のアニメ映画では完成前の段階でここまで長くなることは少ないが、本作は初期のアニマティクス(絵コンテ映像)が2時間以上あったとされる。これは制作陣が“入れられる要素をすべて入れてから削る”という方針を取ったためで、最終的な作品の密度や情報量の多さにつながっている。
スパイダーマンの歴史への膨大なオマージュが詰め込まれている
本作には50年以上にわたるスパイダーマンの歴史への引用や小ネタが大量に仕込まれている。過去の映画版やコミックの設定、さらには異なるバージョンのスパイダーマンへの言及まで含まれており、ファンにとっては“発見型”の楽しみが非常に多い作品となっている。
音楽面でも独自のアプローチが取られている
作曲のダニエル・ペンバートンは、オーケストラ音源をDJソフトで加工するなど、ヒップホップ的な手法を取り入れてスコアを制作。キャラクターごとに異なる音の質感を持たせることで、映像と同様に“多様な世界の混在”を音でも表現している。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
