『ミッション:インポッシブル』シリーズや『ナポレオン』など、確かな演技力と存在感で近年の話題作を席巻してきたヴァネッサ・カービー。MCU初参戦となる『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』では、チーム唯一の女性メンバーインビジブル・ウーマン/スー・ストームを演じる。
この記事ではそんなカービーのキャリアを、10作品のドラマ&映画で振り返る。
- 『ザ・クラウン』(2016–2017)-王室の“稲妻”を生きた若きマーガレット王女
- 『世界一キライなあなたに』(2016)-過去と現在をつなぐ“静かな存在感”
- 『ミッション:インポッシブル』シリーズ(カービーの出演は2018~)-動かずして支配する“毒グモの女王”
- 『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)-王女から最強スパイへ“振れ幅の衝撃”
- 『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019)-静かに物語を動かす“倫理の火種”
- 『私というパズル』(2020)-演技という枠を超えた“魂の悲嘆”
- 『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』(2020)-静寂の中で燃え上がる感情
- 『The Son/息子』(2022)-沈黙の中で家族を支える「見えざる支柱」
- 『ナポレオン』(2023)-ナポレオンを映す“鏡”としてのジョゼフィーヌ
- 『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』-知性と愛情のヒーロー“スー・ストーム”に挑む
『ザ・クラウン』(2016–2017)-王室の“稲妻”を生きた若きマーガレット王女
ヴァネッサ・カービーが世界的な脚光を浴びたのが、Netflixオリジナルドラマ『ザ・クラウン』で演じたプリンセス・マーガレット役だ。シーズン1・2(2016〜2017年)でエリザベス2世の妹として登場し、気品と反骨精神、愛と孤独を併せ持つ“もうひとりの王女”像を鮮烈に体現した。
製作総指揮のピーター・モーガンは2015年、マーガレットの若き日を演じる女優としてカービーを抜擢。彼女は演じるにあたって膨大な資料を読み込み、実際に王女の手紙を鏡に貼って感情を作るなど、徹底した役作りを実践した。

『ザ・クラウン』© 2025 NTVB Media, Inc., All Rights Reserved
劇中では、王室の伝統と自由のはざまで揺れるマーガレットの姿が描かれ、恋愛・官能・外交・離婚・孤独といった人生の光と影が濃密に交錯する。シーズン1での悲恋(ピーター・タウンゼントとの関係)や、シーズン2における“性的覚醒”の演出では、Vanity FairやTIMEをはじめとする海外メディアが「シリーズ序盤最大の見どころ」と評した。特にアントニー・アームストロング=ジョーンズとの関係を描いたエピソードでは、官能的でありながらも品位を保つ演技が絶賛され、「繊細で洗練された演技」と評された。
撮影最終日には「情けないほど泣いてしまった」と振り返り、役柄への深い愛着を語っているカービー。ファンの間では「彼女が演じるマーガレットはエリザベス以上に記憶に残る存在だった」という声もあり、キャリア初期において彼女が演技派としての地位を確立した象徴的な役といえる。シーズン5ではフラッシュバックでの再登場も果たし、その印象的な存在感が“プリンセス・マーガレット=ヴァネッサ・カービー”というイメージを不動のものにした。
『世界一キライなあなたに』(2016)-過去と現在をつなぐ“静かな存在感”
感動的な恋愛ドラマ『世界一キライなあなたに』(原題:Me Before You)でヴァネッサ・カービーが演じたのは、主人公ウィル(サム・クラフリン)の元恋人、アリシア・デウェアーズ。本作において彼女は、主人公ルイーザ(エミリア・クラーク)とウィルの現在の関係性に影を落とす、過去の“象徴的な存在”として登場する。

『世界一キライなあなたに』©2016 Warner Bros. Entertainment Inc. and Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved
アリシアというキャラクターは、ウィルの事故前の人生と深く結びついており、物語中盤でその存在が語られることで、彼の心の傷や孤独がより鮮明に浮かび上がる。登場時間こそ多くはないが、彼女が“去っていった過去”の象徴として描かれることで、現在の恋愛に重みと対比を与えている。
Vanity Fairは「カービーら脇を固める俳優陣が、物語に厚みをもたらしている」と評しており、彼女の落ち着いた佇まいが感情の奥行きを支えている点を指摘している。撮影は2015年に英国で行われ、大規模な邸宅や田園の美術セットを舞台にした映像のなかで、アリシアの登場は決して派手ではないが、“過去という感情のレイヤー”を観客に静かに残す役割を担っている。
『ミッション:インポッシブル』シリーズ(カービーの出演は2018~)-動かずして支配する“毒グモの女王”
トム・クルーズ主演の人気スパイシリーズ『ミッション:インポッシブル』において、ヴァネッサ・カービーは2018年の第6作『フォールアウト』で初登場。謎多き武器商人アラナ・ミツォポリス(通称ホワイト・ウィドウ)を演じ、その冷ややかな眼差しと気品に満ちた存在感で鮮烈な印象を残した。

『ミッション:インポッシブル』より © 2023 PARAMOUNT PICTURES.
カービー演じるホワイト・ウィドウは、ヨーロッパを拠点とする地下組織の女帝として、イーサン・ハント(クルーズ)と緊張感あふれる駆け引きを繰り広げる。
続く第7作『デッドレコニング PART ONE』(2023年)でも同役で続投し、物語の鍵を握る交渉人として再登場。イーサン一行と利害を共有したり、裏切りの気配を漂わせる複雑な立ち位置でストーリーに奥行きを与えた。Redditでは「静かで危険、シリーズ最も記憶に残る女性キャラ」として再登場を歓迎する声が多数を占めた。
『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(2019)-王女から最強スパイへ“振れ幅の衝撃”
『ザ・クラウン』で王室の気品を演じたヴァネッサ・カービーが、本格アクションへと挑んだ大転機が、『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』(原題:Hobbs & Shaw)でのハッティ・ショウ役である。MI6のエージェントであり、デッカード・ショウ(ジェイソン・ステイサム)の妹という設定で登場し、致死性ウイルス“スノーフレーク”をめぐる攻防の中心人物として描かれた。

『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』© Universal Pictures
本作ではカービー自身がナイフ格闘や飛び蹴りといったアクションをスタントなしで演じ切ったことが各所で話題に。監督デヴィッド・リーチ(『ジョン・ウィック』)とのコンビネーションも高く評価され、Entertainment Tonightでは「現場でもっともトレーニング熱心な俳優」と称されている。
演技面では、「美しさと戦闘能力の両立」が注目され、海外メディアも「カービーがジョンソン&ステイサムに匹敵するレベルで作品を引き上げた」と評した。実際ドウェイン・ジョンソンやステイサムとのテンポの良い掛け合いも光り、大きな存在感を示している。
ファンの間では「シリーズ最高の女性キャラ」との声もあり、Redditでは「彼女のスピンオフが観たい」「ホブスとショウよりもハッティが気になる」といった声も多い。カービーにとっても本作は、気品と爆発力を共存させた“アクションスターとしての目覚め”の瞬間であり、王女からスパイへという大胆な変身が見事に成功した作品となった。
『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019)-静かに物語を動かす“倫理の火種”
ヴァネッサ・カービーが演じたのは、実在の記者ガレス・ジョーンズ(ジェームズ・ノートン)を陰から支える女性ジャーナリスト、エイダ・ブルックス。ソ連の情報統制やホロドモール(ウクライナ大飢饉)の実態に迫るなか、彼女は真実に導く“語り手”のような立場で登場する。

『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』より © 2019 FILM PRODUKCJA
本作は「記者としての倫理」や「真実を伝える者の使命」をテーマに据えており、ジョーンズ自身の姿がその道徳性を体現している。
『私というパズル』(2020)-演技という枠を超えた“魂の悲嘆”
ヴァネッサ・カービーが主演を務めた『私というパズル』は、出産直後に娘を亡くした女性の悲嘆と再生を描いた重厚な人間ドラマ。演じたのは、深い喪失感と向き合う主人公マーサ・ワイス。24分におよぶ出産シーンのワンカット演技が話題となり、世界中の批評家と映画祭の視線を一身に集めた。
出産経験のないカービーは、リアリティを追求するために産婦人科での立ち会いやドキュメンタリー鑑賞を重ね、出産直後の身体や精神状態を徹底的に理解。その努力は、Netflix配信作品としては異例のヴェネツィア国際映画祭主演女優賞(ヴォルピ杯)という形で結実した。

『私というパズル』Netflixにて配信中
演出面では、舞台演劇を思わせる長回しや即興演技の要素も含まれており、カービー自身も「人生で最も過酷で、最も誇れる撮影だった」と語っている。VogueやThe New Yorkerでは「彼女なしには成立し得ない映画」「悲嘆の正確な再現」との賛辞が並び、彼女のキャリアにおける決定的なターニングポイントとなった。
崩れ落ちるマーサの感情を、ひとつの台詞もなく、沈黙やまなざしだけで表現するその“静かな叫び”は、映画を越えて観客の心にも深く突き刺さる体験となる。
『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』(2020)-静寂の中で燃え上がる感情
19世紀半ば、アメリカの辺境地帯で孤独に生きる2人の女性の心の交流を描いた本作で、ヴァネッサ・カービーは自由奔放で神秘的な隣人タリーを演じる。対照的な内面を持つアビゲイル(キャサリン・ウォーターストン)と出会い、互いの存在が世界の見え方を一変させていく。

『ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明け』より © 2020 Tallie Productions LLC.
カービーは撮影初日に足を捻挫し、演技プランを急遽変更。歩き回ることが難しい状況を逆手に取り、「静けさの中に潜む存在感」を強調することで、タリーというキャラクターに新たな解釈をもたらした。
『The World to Come』では、『ガーディアン』誌がカービー演じるタリーを「カリスマ的」と評し、『インディペンデント』誌も「今までスターを見たことがあるとすれば、まさに彼女がそうだ」と絶賛するなど、そのセクシーかつ生命力にあふれる演技、目を離せない存在感は多くの批評家に強い印象を残した。
『The Son/息子』(2022)-沈黙の中で家族を支える「見えざる支柱」
『ファーザー』に続き、フローリアン・ゼレール監督が描く家族と心の裂け目の物語において、ヴァネッサ・カービーは父ピーター(ヒュー・ジャックマン)の再婚相手ベスを演じる。明確な悪者も善人もいない家庭の中で、壊れていく息子ニコラスを前に、“日常”をつなぎとめようとする。

『The Son/息子』© THE SON FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.
カービーは、ベスという母親像を「静けさと責任」の象徴として演じた。派手な感情表現を避け、緊張と痛みの中でどうにか平衡を保とうとする演技は、ジャックマンとの共演においても決して引けを取らない強度を持っている。
ゼレール監督の重厚なドラマの中で、カービーは“誰かの母”という立場に宿る葛藤や優しさを、繊細な演技で可視化。カメラの向こうにいる観客にとっての“理解の入り口”のような存在となっている。
『ナポレオン』(2023)-ナポレオンを映す“鏡”としてのジョゼフィーヌ
『ジョーカー』で知られるホアキン・フェニックスがナポレオンを演じ、リドリー・スコットが監督を務めた歴史スペクタクル『ナポレオン』。本作においてヴァネッサ・カービーは、彼の最初の妻ジョゼフィーヌとして登場し、“帝王の心を最も揺らした存在”を体現した。
カービーは、女帝でありながら奔放で気まぐれ、同時に愛情深く繊細という複雑な人物を、静かに、しかし圧倒的な存在感で演じきった。スコット監督の即興演出にも対応し、現場では「最も自由にして最も鋭敏な女優」と称されたという。

『ナポレオン』より
批評家からも高評価を獲得し、『Collider』誌は「ナポレオン像が評価を分けた一方、カービーのジョゼフィーヌだけは“完璧”」と絶賛。2024年に公開されたディレクターズカット版では、彼女の内面を掘り下げた新たなシーンが多数追加され、キャラクターとしての奥行きも明らかになった。
帝国の運命を左右した“妻”という役柄にとどまらず、歴史の裏で最も激しく愛し、最も深く傷ついた存在としてジョゼフィーヌを演じたカービー。彼女が演じることで、この物語はただの歴史劇ではなく、“ある孤独な英雄の人間ドラマ”として成立している。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』-知性と愛情のヒーロー“スー・ストーム”に挑む
2025年7月25日(金)に日米同時公開となるMCU最新作『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』で、ヴァネッサ・カービーが演じるのは、“インビジブル・ウーマン”ことスー・ストーム。原作への敬意を込めて、カービーは量子物理の理論に没頭し、「セルラー・バイブレーション周波数まで語れるほど」に学び込んだという。
共演のペドロ・パスカルらとともに、カービーは“MCU初の家族”としての重力を体現し、現場での信頼感がスクリーンにも説得力を与えている。早期試写では「感情とスタイルを両立させたヒーロー像」として高評価を受け、批評家からは“視覚的にも感情的にも深い作品”、“キャストの絆が作品の芯を支えている”との声が相次いでいる。
マット・シャクマン監督が掲げる“60年代のレトロフューチャー”な世界観において、スーは現実性と温かみを与える存在。単なるサポート役で終わらせず、物語の軸となるヒロインとしての進化が期待されている。
ペドロ・パスカル(ミスター・ファンタスティック役)についてはこちら
ジョセフ・クイン(ヒューマン・トーチ役)についてはこちら
