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【映画レビュー『テイクアウト』】安易な悲劇に堕さない等身大のリアリズム-ショーン・ベイカーが向けるアメリカ周縁の移民たちへの視線

『テイクアウト』© CreFilm. All Rights Reserved REVIEWS
『テイクアウト』© CreFilm. All Rights Reserved

7月4日(金)より”ショーン・ベイカー初期傑作選”として特別上映される『テイクアウト』は、後に『タンジェリン』や『フロリダ・プロジェクト』で国際的な評価を確立することになるショーン・ベイカー監督の長編第二作目にあたる。ニューヨークの中華料理屋で働く不法移民の青年を主人公に据えた本作は、2004年の制作当時から既に監督の一貫したテーマである社会の周縁に生きる人々への深い眼差しが刻まれた重要な作品だ。

『テイクアウト』あらすじ

密入国業者への多額の借金を抱えながらニューヨークの中華料理屋で配達員として働く不法移民の青年の1日を捉えた長編第二作目。徹底した社会派リアリズムのスタイルで、マンハッタンに暮らす移民たちの厳しい日々を浮き彫りにする。

移民たちの厳しい現実に向けられた監督の眼差し

移民が借金に縛られ、極貧の日々を送る現実は決して珍しいものではない。本作の中国系主人公ミン・ディンもその例外ではなく、彼もまた借金の重圧に苦しんでいる。しかし注目すべきは、彼や彼の仲間たち、そしてアメリカ・マンハッタンの片隅で懸命に生きる人々の姿を、ショーン・ベイカーが2004年の時点で既に冷徹でありながら深い共感を込めて捉えていたことだ。その後もベイカーが一貫して社会の周縁に追いやられた弱者たちに寄り添い続けていることを考えれば、この作品に示された監督の眼差しは、彼の映画作家としての原点を物語っている。

安易な悲劇に堕さない等身大のリアリズム

現実の厳しさは「甘くない」などという陳腐な表現では到底表現しきれない。理不尽が当たり前のように横行し、個人の努力など容易く踏みにじられてしまう。生存競争が激しい無機質な都市では、他者への共感よりも自分の利益を優先する人間も少なくない。

それでも本作が安易な悲劇の物語に堕することなく説得力を保っているのは、ベイカーが現実に対して誠実なリアリズムを貫いているからだ。卑劣な人間・冷酷な人間がいる一方で善良な人間も存在するという、複雑な人間社会の真実を描き切っている。全ての人が善人ではないがゆえに苦しみが生まれ、しかし全ての人が悪人でもないがゆえに希望の光が差し込む。過度な残酷さも、過度な優しさも排した等身大の描写こそが、人生の本質を捉えているのではないだろうか。ベイカーと共同監督のツォウ・シンチンは、徹底したリアリズムという武器を手に、限りなく“本物”に近い人生の断片を切り取ることに成功した。

生の感情を捉えるドキュメンタリー的撮影

このリアルな質感を支えているのが、ドキュメンタリー的な撮影手法である。ショーン・ベイカーは、映像をスタイリッシュに装飾することよりも、生の感情や体験をカメラに収めることを重視する監督だ。本作においても、フィクションでありながら記録映像のような臨場感を生み出すことに全力を注いでいる。こうした撮影に対する真摯な姿勢こそが、観客に街の鼓動や空気感を直接伝えるような、血の通った映像表現を実現させているのだ。計算された美しさではなく、むき出しの現実が持つ力強いメッセージ性が、本作の映像には宿っている。


『テイクアウト』は、ショーン・ベイカーという映画作家の出発点を知る上で欠かせない一作である。華やかなハリウッド映画とは対極にある、地を這うような現実を描いた本作には、後の傑作群に通じる監督の映画哲学が既に結晶化している。7月4日(金)より”ショーン・ベイカー初期傑作選”として特別上映される貴重な機会を逃すことなく、この才能ある監督の原点に触れてほしい。

作品情報

タイトル:テイクアウト
原題:Take Out
監督:ショーン・ベイカー、ツォウ・シンチン
脚本:ショーン・ベイカー、ツォウ・シンチン
出演:チャールズ・チャン、エング・フア・ユー、ワン・ザイ・リー
2004年|アメリカ|英語・中国語|87分|カラー
© CreFilm. All Rights Reserved

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