6月6日(金)日本公開を迎える映画『国宝』は、歌舞伎界を舞台に、実力と血筋という宿命に翻弄される二人の青年の物語を描いた意欲作だ。吉沢亮と横浜流星という注目の若手実力派俳優がタッグを組み、176分という長尺をかけて繰り広げられる本格的な人間ドラマは、日本映画界でもそう多く見ない大型企画と言えるだろう。
血筋と運命に翻弄される二人の青年
血筋に運命を左右される歌舞伎界という閉鎖的な世界で、運命に翻弄される二人の青年を描いた本作は、その設定からして観る者の心を掴んで離さない。任侠の血を引く異端児・喜久雄が、名門の跡取りという重責を背負わされる一方で、生粋の御曹司である俊介は、本来自分のものであったはずの地位を奪われる屈辱に打ちのめされる。この相反する境遇が生み出すドラマの構図は実に巧妙で、観客は冒頭から物語の渦に巻き込まれていく。

『国宝』吉沢亮(© 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会)
そして、この複雑な役どころに吉沢亮と横浜流星という実力派若手俳優コンビが配されたことで、作品への期待値は一気に高まった。結果として、両者はその期待を裏切ることなく、むしろそれを上回る熱演を披露している。

『国宝』横浜流星(© 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会)
圧倒的な美貌と真摯な歌舞伎への取り組み
まずもちろん特筆すべきは、両俳優の圧倒的なビジュアルの美しさ。まさに“顔面国宝”といえる吉沢亮と横浜流星の端正な美貌は、歌舞伎という視覚芸術において極めて重要な要素となっている。濃厚な白塗りと紅差しが施された舞台化粧の下でも、二人の個性的な魅力は決して埋もれることがない。

『国宝』吉沢亮、横浜流星(© 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会)
さらに感銘を受けるのは、両者が歌舞伎という高度な芸能に真摯に向き合い、相当な稽古を積んだであろうことが画面越しからも伝わってくる点だ。歌舞伎の専門的な評価は控えるが、少なくとも映画的な表現としては申し分のない完成度を誇っている。特に印象的なのは、「実力はありながらもまだ未熟」という状態から始まり、次第に洗練された芸へと昇華していく過程が丁寧に描かれていること。観客は二人の成長を目の当たりにする喜びを味わうことができる。

『国宝』吉沢亮(© 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会)
キャラクター造形においても、両俳優は秀逸な演技力を発揮している。横浜流星が演じる俊介は、生来の御曹司気質による傲慢さを見せつつも、実力で上回る喜久雄への嫉妬と劣等感を隠そうと必死に虚勢を張る複雑な人物として描かれる。その表面的な明るさの裏に潜む脆弱性と、プライドが傷つけられることへの恐怖を、横浜流星は繊細かつ説得力のある演技で表現している。観客は彼の痛々しい虚勢とそれでも拭えない不安、そして根性に心を揺さぶられることだろう。

『国宝』横浜流星(© 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会)
一方、吉沢亮演じる主人公・喜久雄は、より複雑で危険な魅力を放つキャラクターだ。表面上は真摯な努力家に見えるが、異端者としての立場の不安定さが彼の極端な感情を駆り立てていく。成功への執着は次第に常軌を逸したレベルに達し、時として人間性すら疑われるような行動に走る姿は、決して美化されることなく描かれている。吉沢亮は、この人物を、それでもなお魅力的に感じさせる絶妙な演技バランスを見せており、観客は彼の堕落を目撃しながらも目が離せなくなる。
映像美と長尺を活かした圧巻の構成
二人の関係性の変化を視覚言語で表現する撮影も巧みで、観客は台詞に頼らずとも彼らの心理状態を読み取ることができる。光と影の対比、フレーム内での人物配置、カメラアングルの選択など、あらゆる要素が計算し尽くされているように感じ、両者の力関係やその微妙な変遷が一瞥で理解できるよう設計されている。このような映像による語りは、映画という媒体ならではの強力な表現手法であり、本作の完成度を大きく押し上げている。

『国宝』吉沢亮(© 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会)
176分という長尺を活かした構成も見事だ。この時間的余裕により、歌舞伎の舞台シーンを存分に堪能することができる。豪華絢爛な衣装、精密な舞台美術、そして役者たちの鍛え抜かれた所作が織りなす視覚的饗宴は、まさに映画館の大スクリーンで観るべき圧巻の光景。これらのシーンには、時として『セッション』を彷彿とさせるような、芸術への献身が生み出す狂気と美しさが同居している。完璧を求める執念が肉体と精神を削り取っていく様は、心に深い感動と畏怖を刻み込む。

『国宝』渡辺謙(© 吉田修一/朝日新聞出版 © 2025映画「国宝」製作委員会)
6月6日(金)から全国公開される『国宝』は、確実に今年の日本映画界を代表する一作となるだろう。歌舞伎という伝統芸能への深い敬意と、現代的な映画表現が見事に融合した本作は、単なるエンターテインメントを超えた芸術的価値を持つ作品として記憶されるはずだ。176分という上映時間を忘れさせるほどの没入感と、観終わった後も心に残り続ける余韻。これこそが、真の意味での“国宝”級の映画体験と言えるのではないだろうか。


