映画『呪われた老人の館』(2021)を紹介&解説。
映画『呪われた老人の館』概要
映画『呪われた老人の館』は、アクセル・キャロリン監督・脚本によるホラー映画。Amazonとブラムハウスによる映画シリーズ「Welcome to the Blumhouse」の1作で、病をきっかけに高齢者施設へ入居した70歳の女性が、入居者たちを襲う怪異と施設に隠された秘密に迫っていく。
「老人だから」「認知症だから」という理由で本人の訴えが信用されなくなっていく恐怖を、ゴシックホラーの形で描く。主演はバーバラ・ハーシー、共演にブルース・デイビソン、ニコラス・アレクサンダー、ジル・ラーソン、フラン・ベネットら。
作品情報
| 日本版タイトル | 『呪われた老人の館』 |
|---|---|
| 原題 | The Manor |
| 製作年 | 2021年 |
| 本国公開日 | 2021年10月8日(Prime Video配信) |
| 日本公開日 | 2021年10月8日(Prime Video配信) |
| ジャンル | ホラー/スリラー |
| 製作国 | アメリカ |
| 原作 | 無 |
| 上映時間 | 81分 |
| 監督・脚本 | アクセル・キャロリン |
|---|---|
| 製作 | テラ・エイブロムズ(共同製作)/パメラ・モンロー(ラインプロデューサー) |
| 製作総指揮 | サンディ・キング/リチャード・J・ボスナー/ジェレミー・ゴールド/マーシー・ワイズマン/リサ・ブルース/ジェイソン・ブラム |
| 撮影 | アンドレス・サンチェス |
| 編集 | クリスティナ・ハミルトン=グロブラー/ロバート・ホフマン |
| 作曲 | クリストファー・ドレイク |
| 出演 | バーバラ・ハーシー/ブルース・デイビソン/ニコラス・アレクサンダー/ジル・ラーソン/フラン・ベネット/ケイティ・アマンダ・キーン/シエラ・ペイトン/ナンシー・リネハン・チャールズ/シシー・ウェルマン |
| 製作 | Amazonスタジオ/ブラムハウス・テレビジョン/Storm King Productions |
| 配給 | Amazon Prime Video |
あらすじ
70歳のジュディス・オルブライトは、軽い脳卒中と病気をきっかけに、家族へ負担をかけまいと高齢者施設「ゴールデン・サン・マナー」へ入居する。
新たな仲間たちと出会い、施設での生活に馴染み始めるジュディスだったが、夜になると異形の存在を目撃するようになる。さらに施設では入居者たちが相次いで不可解な死を遂げていた。
ジュディスは何か恐ろしいものが老人たちを狙っていると訴えるが、周囲は彼女の言葉を認知症による幻覚だと判断。家族にさえ信じてもらえなくなったジュディスは、自ら施設の秘密を突き止めようとする。
主な登場人物(キャスト)
ジュディス・オルブライト(バーバラ・ハーシー):本作の主人公。70歳の元プロダンサーで、病をきっかけに高齢者施設へ入居する。気が強く活動的な人物だが、施設で怪異を目撃しても認知症による幻覚だと思われ、次第に孤立していく。
バーバラ(ケイティ・アマンダ・キーン):ジュディスの娘で、ジョシュの母親。母への愛情は持っているものの医師の診断を信頼し、怪異を訴えるジュディスの言葉を病気によるものだと考えてしまう。
ジョシュ(ニコラス・アレクサンダー):ジュディスと非常に仲の良い17歳の孫。祖母の施設入りに反対し、怪異の訴えには一度疑念を抱くものの、やがて真相を知って彼女の最大の協力者となる。
ローランド(ブルース・デイビソン):ジュディスが施設で親しくなる男性入居者。陽気で社交的な人物で、ジュディスに好意を寄せながら彼女を仲間の輪へ迎え入れるが、施設に隠された秘密にも深く関わっている。
ルース(フラン・ベネット)、トリッシュ(ジル・ラーソン):ローランド、トリッシュと親しくする女性入居者。新入りのジュディスを気さくに迎え入れる一方、ローランドと施設の秘密を共有している。
アネット(ナンシー・リネハン・チャールズ):ジュディスの同室となる高齢女性。「誰かが見ている」と怪異に怯え、施設で相次ぐ死についてジュディスへ警告する。
イモジェン(シシー・ウェルマン):ゴールデン・サン・マナーの入居者。アネットが残した犠牲者のリストに名前があり、ジュディスにも危険が迫っていることを示す存在となる。
リーゼル(シエラ・ペイトン):ジュディスに比較的親切に接する施設の看護師。次第に施設内で何か異常なことが起きていると疑い、ジュディスへ協力しようとする。
作品の魅力解説・レビュー
老人への偏見そのものをホラーにする
本作の興味深さは、高齢者に向けられる社会の偏った眼差し、エイジズムを、きわめて王道的な怪異ホラーの構造へと落とし込んでいる点にある。
ジュディスが「何かを見た」と訴えても、その言葉は高齢であることや病歴を理由に、「ボケているのではないか」「幻覚にすぎないのではないか」と片づけられてしまう。若い人物の口から発せられれば事件の目撃証言として扱われたかもしれない言葉が、語り手が老人であるというだけで信憑性を失っていく。そこにこそ本作の怖さがある。
ジュディスを追い詰めるのは、怪物に襲われる恐怖以上に、本人の頭も心も明晰であるにもかかわらず、周囲から一方的に判断能力を失った人間として扱われていくという事態のほうだ。さらに本作には、高齢者が置かれたこの社会的な脆弱さを文字どおり利用し、彼らから搾取する存在までもが登場する。
「愛しているけど信じられない」という家族の悲しさ
家族がジュディスの言葉を信じないのも、決して彼女への愛情が欠けているからではない。娘のバーバラも孫のジョシュも、ジュディスを心から大切に思っている。
それでも医師から認知症の可能性を示されれば、「本人を守るためにも、ここは専門家の判断に従うべきだ」と考えてしまう。そこから生まれるのが、「愛しているけれど、あなたの言っていることは信じられない」という痛ましいすれ違いである。
設定そのものはかなりオカルト色の強いものだが、大切な家族であるがゆえに、本人の意思よりも「この人のためになるはずだ」という周囲の判断を優先してしまうという問題は、きわめて普遍的なものだ。善意と愛情に根ざした行動であっても、人は相手を深く傷つけうる。その点にこそ、本作の人間ドラマとしての痛切さがある。
身体は老いても、中身まで老人になるわけではない
ジュディスは、年齢を重ねてなお旺盛な生命力を失わず、ダンスを愛し、冗談も恋愛も楽しむことのできる人物として描かれる。そんな彼女と、ローランド、ルース、トリッシュといった施設の老人たちの姿を通して浮かび上がるのは、身体の老化と本人の内面とが、必ずしも同じ速度で変化していくわけではないという事実だ。
自分の中身は昨日までと大して変わっていないにもかかわらず、ある年齢や病気を境に、社会から「もう何もできない人」「代わりに判断してあげるべき人」として扱われ始める。そのやるせなさこそが、彼らを若さや自由への執着へと駆り立てていくのである。
家族の結びつきまでひっくり返す異様な結末
終盤、物語はホラーとしてかなり風変わりな方向へと転がっていく。通常であれば「悪を打ち倒し、家族の絆を取り戻す」という結末に収まりそうなところから、ジュディスたちが経験してきた老いへの恐怖、家族とのすれ違い、さらには過去の喪失までもが折り重なり、予想外の選択へと結びついていくのだ。
とりわけジュディスとジョシュの強い結びつきは、祖母と孫の温かな愛情として描かれる一方で、互いを失いたくないあまり倫理的な一線さえ越えかねない、「共依存」とも映る関係としても見えてくる。
ホラーとしての恐怖や緊張感そのものはさほど強烈ではなく、怪異の正体や終盤のオカルト的な設定についても、評価は分かれるだろう。
それでも、「自分はまだ自分のままなのに、社会からはそう扱ってもらえなくなる」という老いの苦痛と家族の問題を、奇妙な怪談へと結びつけた着眼点は、本作ならではの美点と言える。
ライター/エディター/映画インスタグラマー。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(Instagram・X)やYouTubeチャンネル「cula 見て聞く映画マガジン(旧:アルテミシネマ)」においても映画や海外ドラマ、音楽といったカルチャーに関する情報レビューを発信している。
簡易ストーリー解説(ネタバレ)
起:自ら老人ホームへ入ったジュディス
70歳のジュディスは脳卒中を起こし、パーキンソン病も判明。娘バーバラや孫ジョシュの負担になりたくないと、自ら高齢者施設「ゴールデン・サン・マナー」への入居を決める。
施設ではローランド、ルース、トリッシュという陽気な老人たちと親しくなるが、同室のアネットは「誰かが見ている」と怯えていた。やがてジュディス自身も、夜になると樹皮のような怪物を見るようになる。
承①:誰にも信じてもらえない恐怖
周囲は怪物をジュディスの幻覚だと判断し、医師からも認知症と診断される。最初は彼女を信じていたジョシュまで疑い始め、ジュディスは孤立していく。
そんな中、アネットが怪物に襲われた後、脳卒中のような状態で死亡。死の直前にジュディスへ渡したリストには犠牲者らしき名前が並び、その中にはジュディス自身の名前も記されていた。
承②:施設に隠された秘密
施設を脱走したジュディスは、森で若い男女の姿を目撃する。さらに施設に飾られた約40年前の写真から、ローランド、ルース、トリッシュが当時からまったく歳を取っていないことに気づく。
調査を進めるうち、施設側が脳画像を偽造して老人たちを認知症扱いしていたことや、3人と職員たちがつながっていることも判明する。
別の入居者イモジェンも死亡し、ジュディスを信じ始めた看護師リーゼルまで姿を消す。追い詰められたジュディスは大量の薬を飲んで自殺しようとするが、真相に気づいたジョシュが現れ、祖母を信じなかったことを謝罪する。
転:怪物の正体とジュディスの逆転
ジュディスとジョシュは、ローランドたちが巨大なオーク(樫)の木に宿る存在と契約し、施設の老人たちの生命を犠牲にすることで不老と若さを得ていたことを突き止める。
次の生贄に選ばれていたジュディスは、儀式に使われる自分の髪をローランドの髪とすり替える。すると召喚された怪物はローランド自身を襲い、生命を吸い尽くして殺害する。
結:被害者から“仲間”へ
ジュディスがオークの木を焼こうとすると、ルースとトリッシュは「ローランドの代わりに仲間になれば、老いずに生きられる」と持ちかける。
そして意外にも、ジュディスとジョシュはその誘いを受け入れる。ジョシュは施設の職員となり、ジュディスも新たな老人たちを犠牲にする側へ回る。
ラストでは、歳を取らなくなったジュディスが再び「70歳の誕生日」を祝い、夜になると若い姿へ戻って楽しそうに踊る。老いから解放された幸福の裏で、他人の命を犠牲にし続けるというブラックな結末を迎える。
