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『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』“あのキスシーン”はどう撮られたのか-未成年俳優と法的配慮の舞台裏

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』より © 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved. FILMS/TV SERIES
『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』より © 2025 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』で描かれたキスシーンの舞台裏と、その法的・技術的な実現方法に迫る。


アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』の中でも、とりわけ静かで優しい余韻を残す場面がある。ナヴィの少女キリと、家族に守られながら生きる人間の少年スパイダーが心を通わせるキスシーンだ。

物語上は純粋な感情の交流として描かれるこの瞬間だが、撮影の舞台裏では、年齢や法的制約をめぐる極めて慎重な判断が求められていた。

キスシーンの裏側にあった年齢と法的制約

キリを演じたのはシガーニー・ウィーバー、スパイダー役はジャック・チャンピオン。しかし『ファイヤー・アンド・アッシュ』の一部は最大8年前に撮影されており、ジェームズ・キャメロン監督によれば、チャンピオンは当時わずか15歳だったという。この年齢差と未成年という条件から、ふたりが直接キスをする形での撮影は不可能だった。

そこで制作陣が選択したのが、デジタル技術を用いた方法である。キャメロン監督は、米『ザ・ハリウッド・リポーター』誌に対して、その舞台裏を次のように語っている。

「私たちは、シガーニーに別の人とキスしてもらって、ジャックには別の未成年者とキスしてもらって、それからふたつを合成するという方法をとったんだ」

「ふたりはキス以外のシーンはすべて演じたよ。シガニーが彼の頬にキスするのは問題なかった」

「親密なシーンに関してはたくさんのルールがあるから、ほんのわずかだけど本物ではないことをしなければならなかった数少ない場面の一つだったね。でも、そうするしかなかったから、そうしなければならなかったんだ」

このシーンは、映像技術の進歩だけでなく、俳優の安全と倫理を最優先にした判断の積み重ねによって成立していた。

10代の少女を演じた経験がもたらした変化

シガーニー・ウィーバーにとって、『ウェイ・オブ・ウォーター』と『ファイヤー・アンド・アッシュ』で10代のナヴィの少女を演じた経験は、単なる役作りにとどまらなかったという。彼女はナヴィという存在そのものが、自身の身体感覚や感情に影響を与えたと振り返っている。

「ナヴィを演じる経験全体が、彼らはとても身体性を大切にしていて、それが自分を変えてくれるの」

さらにウィーバーは、その変化が撮影期間中だけのものではなかったことを明かす。

「たしかにほとんどの時間、とても喜びに満ちていると感じたよ。そしてそれはおそらく身体的にも表れていたと思う」

身体を通して感情を表現するナヴィの在り方は、彼女自身の日常にも影響を及ぼしていた。年齢やキャリアを重ねた俳優が、再び10代の視点や感覚に向き合うことは容易ではない。しかしウィーバーは、このシリーズを通じて、演技が人の内面だけでなく身体そのものをも変えうることを実感したという。

キャメロン監督の評判と、現場で貫かれる姿勢

ウィーバーは1986年の『エイリアン2』をはじめ、2本の『アバター』シリーズでジェームズ・キャメロン監督と仕事を共にしてきた。業界では“気難しい”“厳格”と語られることもあるキャメロンについて、彼女は異なる印象を口にしている。

「彼はいつも私にとってとても優しい人なの。とてもいい人で、自分のやっていることを心から楽しんでいると思う」

長年にわたる協働関係の中で、ウィーバーが感じてきたのは、恐怖や威圧によって現場を支配するタイプの演出家像ではなかった。彼女自身、多くの“恐ろしい評判”を持つ監督たちと仕事をしてきたと語るが、現場での振る舞いについては明確なスタンスを持っている。

「もし誰かが現場で誰かに怒鳴ったら、率直に言って、私はその人のところに行ってこう言うの」

「『もしあなたがひとりに怒鳴るなら、私たち全員に怒鳴ることになるの。だからそういうことはしないで。私たちはみんな最善を尽くしているんだから』ってね」

俳優やスタッフが安心して力を発揮できる環境こそが、作品の質を高めるという考え方は、彼女の長いキャリアの中で培われてきたものだ。『アバター』シリーズの現場でも、そうした姿勢が一貫して共有されていたことがうかがえる。


キャメロン監督は、興行成績次第では『ファイヤー・アンド・アッシュ』が最後の『アバター』作品になる可能性があるとも語っている。それでもウィーバーは、この物語がここで終わるべきではないと考えている。

「『アバター』4と5は本当にすばらしいと思う。すべてが一つの大きな物語の一部だから、このサーガは続くべきだと思う」

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』で描かれたキスシーンは、単なるロマンティックな演出ではない。そこには、俳優の安全や法的配慮を最優先にしながらも、物語の感情を損なわないための技術と判断が積み重ねられていた。
デジタル技術の進化と倫理的な制作姿勢が交差した先に、この“最も優しい瞬間”は成立している。

『アバター:ファイヤー・アンド・アッシュ』は現在、劇場公開中。

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